前回のあらすじ：ガウラウという世界に住む少女パノは、右腕を失った師と仰ぐ女性ロディアから、代わりにテリメイン調査の依頼を引き受けてくれないかと頼まれました。 　テリメインは、事前に得た情報の通り、海が一面に広がる世界でした。 　パノがゲートと呼ばれる、世界と世界を繋ぐ門のような装置をくぐってテリメインに着くと、真っ先に潮の香りを含んだ風がパノの鼻をくすぐりました。 　ガウラウにも海はありますが、まともに足を踏み入れられる海岸は多くありません。近付いても平気な、穏やかな海岸がずーっと続いている光景は、パノの心をくすぐるのに十二分でした。 　足裏に伝わる砂の感覚を楽しみつつ、わざと波打ち際付近を歩きながら、パノは海底探索協会の建物を目指しました。 　海底探索協会とは、ロディアとパノが受けた依頼——つまり、遺跡探索者募集のお誘いの依頼主です。パノはロディアから、テリメインに着いたらまずこの組織の建物を目指せ、と言われていました。 　この協会、全ての探索者に等しくサポートをするが故に、ひとりひとりへのサポートの質は悪いだとか、そんなことも囁かれている組織ですが、パノは質の良し悪しなんてものをあまり気にせず、全ての探索者が同じ支援を受けられるってすごいなー、と、そう呑気に考えていました。 　……そうこうしている間に、目的の建物を簡単に発見することができました。既に探索者となった人は数多いのか、砂浜の上に複数人の足跡が消えずに残っていたんですもの。これらを辿っていけば、簡単な話です。 　足についた砂を軽く払ってから、協会の入口へ一歩踏み出します。すると眼鏡をかけた人魚が、笑顔でパノを出迎えてくれました。 　受付係のロザリアネットという人魚は、眼鏡の奥で細めた目が特徴的な、遠くから見ても目立つ、桃色の髪をした人魚の女性でした。パノは知り合いの知り合いくらいの、そんなに親しくもない先輩にこんな髪色の人がいたな、と思いましたが、受付嬢の髪はその先輩よりも鮮やかで、例えるなら絵の具をそのままぶちまけたような、良い意味でも悪い意味でも目を惹く存在でした。 　またガウラウにおいて人魚とは、空想の産物でしかなかったので、おとぎ話でしか聞かない存在が目の前にいる、という事実も相まって、彼女はますますパノの興味を惹きました。 　そんなガウラウ生まれの少女は探索者として登録するにあたってエントリーシートの提出を求められたので、備え付けのペンで個人情報を埋めながら、受付のカウンターを挟んで立っている——いや、泳いでいる、でしょうか。そんな眼鏡の人魚を観察していました。耳の代わりに生えているであろうヒレ。豊満な胸。笑顔のまま、決して大きく開かれることのない目。 　——パノは確信しました。 　このロザリアネットという人魚は、怒らせると怖い人魚だと……！ 「書き終わりました～」 「あら、お早い♪　ありがとうございます。抜けている箇所は……なし、っと……はい、それでは必要な手続きはこれで終了ですので、最後にあちらで簡単なご説明を致しますね♪」 　恐る恐る提出したエントリーシートを、受付嬢が手早く確認しました。出会って一時間も経過していませんが、ロザリアネットが優秀な窓口係であることは何となく感じ取れました。ですがパノはどうも彼女が好きになれず、早く一連の手続きが終わって解放されたいと願ってしまったほど、彼女から滲み出るオーラと言いますか、全体的な雰囲気が苦手でした。 　……彼女の発言を文章に書き起こすとしたら、読点の代わりに音符マークが付くような、そんなルンルン気分と言っても過言ではない喋り方。笑顔を絶やさずというよりも、わざと笑顔だけを作っているのか？　とも考えてしまう、やや不気味さも感じられる笑み。 　そう、これはパノが知っているところの、『腹黒』と呼ばれる性格の人物像にどことなく一致していたのです…… 「ちょっと待った。こいつも新しい登録者か？」 　するとふとロザリアネットがいるのとは別の方向から、男性らしき声が聞こえてきました。 「何これ！？」 　振り向くとそこには耳の代わりにヒレを生やした、下半身が魚、上半身がヒト——ではなく、美しい金の長髪をなびかせている、紫色の肌をしたふくよかな豚の獣人が立っていました。そのおとぎ話にも載っていない、合成獣のような奇っ怪な姿を見たパノは、ひどく腰が抜けてしまいました。 　現在のガウラウには、豚の獣人というものが存在しません。ですのでガウラウ基準で言うならば、豚に似た身体をしていれば問答無用で魔物、オークと見なされます。といっても、本当に彼の種族はマリンオークというもので、名前もオーク・M・シュナイダーなんですけど。 「あらあら、オークさん。そうですよ、また新しい登録者の方がいらしたんです♪　それにしても、そんな大きな図体でそこにいられては私、ご案内できませんわ」 　やっぱりオークなんだ、という拍子抜けした感覚と、受付嬢が『お前邪魔なんだよ』という本音を何重にもオブラートに包んだ発言、から隠しきれない毒や棘を同時に感じ取ったパノは、腰を抜かしたまま心なしふたりから距離をとっていました。 「案内の前に、こいつらの実力を試す必要があるだろう。忘れたのか？」 「一体何をおっしゃっているのです？　私はそんなこと聞いていませんわ」 「え……ええー？」 「冗談です」 　——パノは本日二回目の確信をしました。 　このロザリアネットという人魚は、オークさんが大嫌いだと……！ 「実は、この世界には危険な動植物がたくさん生息しているんです。まだまだ生態が判明していないものも居ますし……ある程度は探索者協会がバックアップをしているんですけれど、この世界にいらした皆さんでも自衛していただきたいということで……それで、簡単な実力テストを行うことになったんです」 「そういうことだ。その実力テストは俺が直に担当する」 「というわけで、この野蛮な豚さん……じゃなかった、オークさんに実力を見せて差し上げてくださいね」 　さすがにこうも『私はお前が嫌いだ』というアピールを何回も繰り返されると、見ているだけのパノの心まで痛くなってくるものです。 　心を抉られ落ち込むオークにどう声をかければいいものか迷いながら、パノは隣で相変わらずの笑顔を浮かべるロザリアネットを見ました。だんだんと彼女の笑顔が自分は悪くない、というような吹っ切れたものに見えてしまい、この棘を隠しきれいないバラのような人魚が、まずます苦手になってしまいました。 「……まあいい。それでは、実力テストを始めるぞ。さあ、おまえの力を見せてもらおう」 「ロザリアなんとかさんこっ、これ大丈夫なんですよね！？　力試しが終わったあとに、あの、『これは嘘だったんだー』って言って襲ってきたりしま——」 　いきなり筋肉の塊と戦う羽目になったパノ。慌てふためいたままロザリアネットに質問するも、受付嬢は無言で、笑顔を崩さずふたりを見守っています。 「ギャーーーッ！！　そんな笑顔で無言の圧力かけてこないでください！！」 　* 　結果的に、パノは教官であるオークとの戦いに勝利しました。 　基本的に探索者は海中で戦うことになる、とのロザリアネットの一言で、実力テストは急遽水中で行われることになりました。制限はあるものの、協会にエントリーシートを提出する前に受け取った『スキルストーン』という不思議な石のおかげで、パノは地上でするのとほぼ変わらない呼吸を行いながら、オークの強靭な筋肉に向かってショベルを投げたり、振り回したりしたのです。 　……が、勝負がついたのはパノが一本取ったから、という理由ではありませんでした。パノがオークの体力を削りきる前に、オークのスキルストーンが供給する空気が尽き、溺れそうになってしまったからという、あまりにも酷くて、情けないアクシデントが発生したからです。 　テストには合格したものの、これでは不本意な結果となってしまったも同然だし、強制的にテストが中断されたと言い換えても過言ではありません。パノはオーク教官にスキルストーンを渡した相手——ロザリアネットを、睨みつけました。 「おつかれさまでした。チューンジェムはデメリットもあるので、気を付けてつけて下さいね」 　視線の先のロザリアネットは、同僚が死にそうになったというのに、にこやかな笑顔のままそう言い放ちました。 　* 　ともあれ、これで晴れて協会に力を認められ、探索者としてテリメインでの活動を許可されたわけです…… 　……が、ここからひとりで自由に冒険したり旅行したりして満喫しろと言われても、心細いものがありました。ロザリアネットに言われたことを思い出します。 「この世界は、ひとりでは困難な場面でも、パーティを結成して乗り切ることもできる……」 　パーティ。仲間。つまり、一緒に行動してくれる誰かが必要というわけです！ 　そうと決まればパノはすぐ行動に移しました。協会の建物の中や、その周辺にいる人を観察し、この人だと思った人に一緒に行動してもらえるよう頼み込むのです。 「すみませーん、すみませ～ん！　えーっと、おねえさんは、現地の人ですか！？」 　……こう声をかけてパーティが結成できたのかどうかは、この次のお楽しみ。

	穏やかな海《セルリアン》

穏やかな波、暖かい水温。太陽の光を透かし、キラキラと輝く水中に、
光とともに舞うように鮮やかな熱帯魚達が珊瑚礁に集まる海域。

この世界の窓口である探索者協会からも程近いこの場所は、
色々なところから集まってきたバカンス目的の観光客や、
これから冒険に挑もうとするものたちで賑わっている。

比較的凶暴な生物もいない、穏やかな、冬でも温暖の海である。

遺跡探索

（あなた）は、この世界の探索者としての一歩を踏み出した。
海底に沈む遺跡の探索——。

誰もがこの海の、この遺跡から冒険の一ページを刻み始める。
とはいえこの辺りはまだまだスタートライン。

もっとこの世界に眠る、謎や宝や未知の生物を目にしたいと願うなら、
このセルリアンの遺跡を抜け、さらなる海域を目指すといいだろう。

海はまだまだ遠く、広がっている。

——辺りは穏やかな潮の流れと、ちらほら入る光で暖かい。
まだまだ遺跡は先へ続いている……。

パノは周辺を探索…………。

ナマコを手に入れた！

パノはゴーグルを購入した。

パノは【自SP○%以上】を購入した。

パノはSSシェルボックス(低)を購入した。

パノはSSシェルボックス(低)を購入した。

パノはSSシェルボックス(低)を購入した。

パノは体力を訓練した。
パノは体力を訓練した。
パノは器用を訓練した。
パノは器用を訓練しようとしたが、EXPが足りなかった。
パノは器用を訓練しようとしたが、EXPが足りなかった。

目的の決定