Aubel …… 　目を開けてみれば、そこは美しい砂浜じゃった。 　直ぐ近くまで波が来ておってな。波の音が、この世界で始めて聴いた音だったよ。 　ああ、美しい。“さびしい”世界じゃなと、つい思ってしもうた。前の世界の心持ちを、あるいは未だ引きずっておるのかも知れんな。楽しい世界じゃが、いささかヒトが死にすぎた。 　ほんの一時とはいえ、泥のように駆けずり回ったあの世界に、私(わし)は随分思い入れてしまったようじゃ。面目も無いことじゃの。のう？ 　まぁそれはおいおい慣らしていけば良い。そも新しい世界に渡ったときなど、特に前の世界に滞在する時間が長かった時などは、大体こんなもんじゃ。 　厚かましくも郷愁を感じてしまうのじゃな。渡る世界渡る世界に、それぞれ大切な想い出があるわけじゃ。“我ら”としては余り褒められた情動ではないと、プリムは言うがのう。 　むふふ、中間管理職ってのは大変じゃの。なむなむ。 　ところでのう！ こんないかにも「バカンスしてね（はぁと）」とあざとい萌え声で言わんばかりの素晴らしいビーチじゃ！ とくればする事は決まっておる！ 　「海！」 　「きらめく晴天！！」   「そして浜辺に立つ超絶美少女ダークエルフ（元）！！！」 　イィィィィヤッフウウウウゥゥゥ！！！と服を脱ぎ捨てたところで、私は気付いたんじゃ。ついでに軽く吐血した。 　私、前の世界で受けた傷そのままでこっちに来たんじゃな。 　いや～なんちゅーかこう、我ながら目を覆いたくなるの！ ていうかこんな傷でどうやって前の世界で生き残ったんじゃ私……プリムが『死ななかったらそのまま“テリメイン”まで飛んでもらうから』とか言っておったが、本当に傷までそのままで送り込まれたようじゃ。所謂『よわくてにゅーげーむ』じゃな。 　当然じゃが蓄積していたダメージもそのままじゃった。冗談じゃないが今海など入ろうものなら間違いなく死ぬ。今の私に必要なのはバカンスではなく療養じゃな。 　ところでこの浜と周辺、一っっっ切ヒトの気配がしないんじゃが……私大丈夫かの？ 　　　　△▼ 　えー、えすおーえす。えすおーえす。こちら遭難者一名…………。 　ていうか何じゃプリムあやつ！！ けが人をちっこい無人島にほったらかすとか！ 間接的に死ねっていってるようなもんじゃろ！！ なんでじゃ！ 私なんか悪いことしたか！！ 　と、いうわけで。ぐるっと島を回ってみたところ、此処は海のど真ん中の小島じゃ。当然じゃが人などいない。私、現在絶賛遭難中。 　いやいや、私一応神族じゃし？ この程度のピンチなんて神パワーをちょちょっとアレしてどうこうすればヨユーじゃろ？ ヨユー……。 　うん、無理。私受肉しとるし。 　そこらへんのガキンチョよりは腕っ節も頭の回りも早い自信はあるが、それ以上はちょっと……いやこれマジでやばない？ 　あー、ん。まあ、とりあえず水じゃな。幸い、小さいが森もある。エルフとして森と親和するのも、随分久しぶりじゃのう。 　はぁ～、もうなんでこうなるかのぅ。何か憑かれてるんじゃろか、私。早いところエリオーシュとやらも見つけ出さにゃならんし、まだ快適なバカンスとはしゃれ込めそうにないの。 　……ところで、やっぱボールに顔描いて友達にしたほうがいいんじゃろうか？

	穏やかな海《セルリアン》

穏やかな波、暖かい水温。太陽の光を透かし、キラキラと輝く水中に、
光とともに舞うように鮮やかな熱帯魚達が珊瑚礁に集まる海域。

この世界の窓口である探索者協会からも程近いこの場所は、
色々なところから集まってきたバカンス目的の観光客や、
これから冒険に挑もうとするものたちで賑わっている。

比較的凶暴な生物もいない、穏やかな、冬でも温暖の海である。

遺跡探索

（あなた）は、この世界の探索者としての一歩を踏み出した。
海底に沈む遺跡の探索——。

誰もがこの海の、この遺跡から冒険の一ページを刻み始める。
とはいえこの辺りはまだまだスタートライン。

もっとこの世界に眠る、謎や宝や未知の生物を目にしたいと願うなら、
このセルリアンの遺跡を抜け、さらなる海域を目指すといいだろう。

海はまだまだ遠く、広がっている。