イサナは窓に手を当てて、海中の光景を眺めていた。

幻獣を探す研究者アンテルテのラボは、不思議な生物に引かれて海の中を行く。

その中に借りた一部屋からは、窓を通して海中を見渡せる。

ゆらゆらと踊るように揺れる海草に、

遠くに見える岩肌にたっぷりと張り付いているのは貝の一種だろうか。

そして魚の群れ。小魚の大群は頭上遠くから射し込む日の光を受け、

きらきらと輝きながら窓の前を通り過ぎていく。

海といえば船から見下ろすか、でなければ限られた時間で雲丹や貝を取るのに必死だったイサナにとって、

ゆっくりと海の中を眺めるのは初めてのことだった。

そうでなくともテリメインの海は色彩豊かで、見ているだけで時間が過ぎる。

	イサナ
	「あれを網で獲れりゃ楽だろうねえ……」

	イサナ
	「醤油つけてちょいと炙って、酒のつまみに……」

ゴクリ

唾を飲むイサナ。その後ろには、寝具の上と言わず床と言わず、あちこちに酒瓶が転がっている。

イサナが初めてこの部屋に入ったときまでは、ここは単なる実験室だった。

薄く埃の積もった床を掃き清め、故郷の島から持ってきた大漁旗やお守り、

人形や酒や漁の道具に調理器具……等々を飾る内、

すっかり散らかってしまった。

今や実験室の名残といえば、机の上に置かれた古い実験器具くらいである。

	イサナ
	「しっかし、飯を食う時間でもないし…… これは、いけないね。アレだね」

	イサナ
	「暇だね」

	イサナ
	「アラカとの喧嘩は、後って事になったし……」

会ったその日に始まったアラカとの殺し合いの勝負は、まだついていなかった。

タイミングに恵まれず、アラカとの話し合いの末に一旦は休戦ということになったのだ。

互いにスキルストーンやチューンジェムの扱いに慣れてから、と。

	イサナ
	「その前に軽く手合わせってのも有りだけど……」

	イサナ
	「…………。やめよう。修繕費が払えない。」

このラボの主であるアンテルテの弟子、ポット。

彼はへらへらしているようで締めるところはきっちりと締めてくる。壊してはいけないものを壊せば、あの笑顔であれこれ請求してくるに違いない。

それは非常に宜しくない。

	イサナ
	「やっぱり、大人しくしてるに限るね」

転がっている瓶を拾い上げてがぶがぶと飲む。

それから到着の知らせが届くまで、イサナは部屋でぐうたらを極め、否、鋭気を養っていた。

	穏やかな海《セルリアン》

穏やかな波、暖かい水温。太陽の光を透かし、キラキラと輝く水中に、
光とともに舞うように鮮やかな熱帯魚達が珊瑚礁に集まる海域。

この世界の窓口である探索者協会からも程近いこの場所は、
色々なところから集まってきたバカンス目的の観光客や、
これから冒険に挑もうとするものたちで賑わっている。

比較的凶暴な生物もいない、穏やかな、冬でも温暖の海である。

遺跡探索

（あなた）は、この世界の探索者としての一歩を踏み出した。
海底に沈む遺跡の探索——。

誰もがこの海の、この遺跡から冒険の一ページを刻み始める。
とはいえこの辺りはまだまだスタートライン。

もっとこの世界に眠る、謎や宝や未知の生物を目にしたいと願うなら、
このセルリアンの遺跡を抜け、さらなる海域を目指すといいだろう。

海はまだまだ遠く、広がっている。