「まったくもー、ひどい人もいるよねっ！！」 ぷりぷり怒りながら歩くシャチ娘。 どうやら先ほどの露天で騙されかけたことに対して怒り心頭のようだ。 自分に警戒心がなさすぎるとは全く思いもしない。 「でもあんな風に助けてくれる人もいたし…よかったー」 マータも魔力の使い方覚えたいな～などと 一分もすれば忘れてしまいそうな口調で独り言を言う。 （…ちゃんとお礼、言えなかったな…） 先刻訪れた露天で、普通のある程度常識のある人間であれば 見向きもしないであろう怪しい道具に目を輝かせていたシャチ娘は、 同じくちょろｓ…純真な心を持っているらしい 通りすがりのエルフの女性とともに、怪しい地図を買わされそうになっていた。 （ううん…ちょぉーっと、高い、けど…ほしいお宝が見つかる地図…う、うーーーん…） ぎりぎり払えそうな絶妙なラインをついた値段設定の前に屈しかけていた 彼女を救ったのが通りすがりの小柄な女性だった。 どうやら魔道具の扱いに詳しいらしい彼女は、その露天の道具に 魔力が宿っていないことを看破し、マータ達を助けたのだった。 「あ、この道まっすぐ行ったら協会なんだ！」 協会を探しもせず露天巡りをしていたくせに、 さも探していたように言うシャチ娘。ようやく目的を思い出したらしい。 「…さっきのお肉が柔らかそうな子みたいにいい人ばかりだといいな…」 珍しく少し不安そうに独り言をいい、歩き出す…。だがなんだその特徴の表現は。 「うわあ…」 海底探索協会。 太古に滅び、最近発見されたこのテリメインの探索を行うため、 探索者を集め、彼らのサポートをする組織…。 入り口を抜けると、そこには多くの探索者たちがたむろし、行きかっていた。 高い天井やずらりと並んだカウンター、その奥に見える用途不明の道具などなど。 それらに目を奪われながらもマータはなんとか探索志望者の受付を終えた。 怖いお姉さんに仕組まれたトラップにより教官が窒息して倒れるという、 真の実力者が誰かを思い知るイベントも終わり、 マータはついに探索者となったのだった。 「そういえば」 と、次にどうするか考えながら歩き出そうとしたマータに 怖いお姉ｓ…美人のお姉さん、ロゼリアネットが声をかけた。 「探索者の方々は３人までのパーティを作ることができますよ。 一人では難しい探索も楽になる、かもしれません。 よろしければメンバーを探してみられてはいかがですか？」 「メンバー、かあ…」 ひとりごちるシャチ娘。 （でも知り合いなんていないし…） そう考えながらとりあえずエントランスまで戻ってくると、 「あれ？あの人…！」 先ほど露天でマータ達を助けてくれた女性を見つけた。 「あの！そこの柔らかそうなお肉の人！！」 「え！？わ、私ですか！？っていうか、た、食べるんですか！！？」 戸惑う小柄な女性。おとなしそうな少女がそのように怯えるのは心が痛む…。 「うん、そうきみ！」 そして全く気にしないシャチ娘。通常運転である。 「さっきはありがと！おかげで変なの買わないですんだよ～！」 「あ、先ほどの…いえ、私は大したことをしていませんし」 まだ多少引き気味ながら、話しかけられた理由が分かったのか、少し警戒を解く少女。 「ここにいるってことは、きみも探索者なの？」 「あ、はい。先ほどなったばかりですけど…」 「そうなの！？マータと同じじゃん！！」 ぱっと破顔するシャチ娘。 「ねね、もしよかったらさあ…ぱーてぃっていうの、マータと組んでくれない？ マータ全然知り合いとかいなくって…お願いっ！！」 「ええ…？うーん…」 視線をそらし考え込む少女。 「確かに、こちらとしても知り合いはいませんし…」 と誰かに語り掛けるかのように言うと、 「わかりました。あなたと一緒に行きましょう。 えっと…私はリーシャ・クリムダッツといいます」 「ホント！？！やったーーーー！！！ マータはね、マータ・カルカーサっていうんだ～！！よろしくねっ！！」 でも…、と続けるマータ。 「３人まで一緒に旅できる～ってさっきのお刺身にしたらおいしそうな お姉さんが言ってたような…」 よく覚えていたと褒めたいところだが、その表現は…。消されないか…？ 「リーシャも知り合いいないんだよねえ…どうしよう」 と言ったそのとき。 「話は聞かせてもらった！！！」 と、大きな女性の声が響いた。 「えっ！？」「な、なに！？」 驚いて周囲を見渡す二人。だがそれらしい人の姿はない。 「あれ…でもなんか聞いたことがある声だったような…」 とつぶやいたマータの前に、しゅたっと上からエルフの女性が降ってきた。 「うわぁ！？」 「驚かせてすまない…話は柱の上で聞かせていただいた！」 どうやらその女性は二人が話していた場所の近くにあった柱の上の方に張りつき、 会話を聞いていたらしい。誰かと思えば先ほど露天でマータとともに、 リーシャに助けてもらった女エルフだ。しかし隠れて聞いていた意味は…？ 「実は私も先ほど探索者になったばかり。そんな折に先ほど助けていただいた 貴殿を見かけ、再び感謝の言葉をかけるタイミングをうかがっていたのだが…」 だからってそんなところで待たなくても。 「私も連れがいないものでな…よろしければ二人に同行させてもらえない ものだろうか」 と頭を下げるエルフの女性。 「マータは、一緒に行っていいと思うな～」 と、決断が早いマータ。さすがに何も考えていないだけのことはある。 「…そうですね、悪い人ではないようですし…」 そうリーシャがうなずいたのを見て、 「感謝する。私はサラサ・ソーラ。見てのとおりエルフだ。 里にこもりきりだったもので中々外界のことはよくわからないことが 多いのだが…よろしくお願いする」 「あ、マータも！マータもうちの村からあんまり外出たことなくって～！」 と、世間知らずな二人がきゃっきゃしているのを見ながら、 （…早まったかな…？） 一抹の不安を覚えるリーシャだった…。

	穏やかな海《セルリアン》

穏やかな波、暖かい水温。太陽の光を透かし、キラキラと輝く水中に、
光とともに舞うように鮮やかな熱帯魚達が珊瑚礁に集まる海域。

この世界の窓口である探索者協会からも程近いこの場所は、
色々なところから集まってきたバカンス目的の観光客や、
これから冒険に挑もうとするものたちで賑わっている。

比較的凶暴な生物もいない、穏やかな、冬でも温暖の海である。

遺跡探索

（あなた）は、この世界の探索者としての一歩を踏み出した。
海底に沈む遺跡の探索——。

誰もがこの海の、この遺跡から冒険の一ページを刻み始める。
とはいえこの辺りはまだまだスタートライン。

もっとこの世界に眠る、謎や宝や未知の生物を目にしたいと願うなら、
このセルリアンの遺跡を抜け、さらなる海域を目指すといいだろう。

海はまだまだ遠く、広がっている。