かみさまが見つけたテリメインと呼ばれる場所は、七つの海と遺跡が存在する殆ど全てが水に覆われてしまい既に滅んでしまった世界でした。 　テリメインに向かう道中その詳細を耳にしたおさかなはああどうりでなるほど、と納得したように頷きます。 「わかりました、つまりかみさまは泳げないのですね！」 「お？　どうした急に俺様のこと馬鹿にして、喧嘩売ってんのか？」 「ひっ！？　い、いえ、そういうわけではなく！」 　おさかなはなるほどと心の底から納得して解を見つけたつもりでしたが、どうやら相手の笑みと言葉によるとそれは間違いのようでした。 　てっきり、と思ったのです。殆ど全てが水に覆われているということはつまり陸地が少ないということで。そこに自らではなく自分を派遣するということは。 「お、泳げないから、ぼくのような魚を拾って代わりに行かせるのかと思いまして……」 「最初にあんたに説明しただろう、言い付けがあるから俺様自身が行けないんだって。つまり原因は言い付けであって俺様は泳げる、っつーかどんなとこでも移動できる、なんていったってかみさまだし」 「なんだあ」 　さすがかみさま。できないことはどうやらなさそうな様子です。 　ということはやっぱり自分はほんとたまたまこの人の目の前で死にかけていたから助けられたのだなあと、ほんとに単なる偶然なのだなあとおさかなは改めて思い知ります。 　別にそれが残念だとかなんだとかそういうことではなく、寧ろラッキーなことなのですが、あまりにラッキーなので何か理由があるのではないかと思っていたのでした。 　思っていましたが、ほんとうにただのラッキーだったようです。 　さてさて、そんなことを話している内に気づけば二人は目的地に辿り着いていました。 　その名も海底探索協会。 　なぜさっそく探索にいかずにこんなところに来るかといいますと、どうやらここではテリメインでの探索をする冒険者を募っているようなのです。 　受けれるサポートの質は低いようですが、あるのとないのとではやっぱりあった方がいいしお得だとそれがかみさまの言葉でした。 　神様といえば全知全能なんでもできると思っていたおさかななので、こんなところに足を伸ばさずともいいのではないかと思いましたが。 『俺様はあんたのことは生き返らせてやるがそれ以上のことはできねえから』 　ときっぱりはっきり言い切られてしまい、だからこそおさかなの今の力を考えるとここに来るのが一番いいという結論が出たようです。 　どうやら神様の世界にも色々ルールはあるみたいで、その内容はおさかなには細かくてよく理解はできませんでした。 　それでもかみさまはすっぽんぽんだった自分に服は見繕ってくれましたし、日なたを元気に歩ける体も与えてくれました。 　サービスしてくれてるんだなあとおさかなはしみじみ思います。ありがたいことです。その分しっかり働かねば。 　そうやって冒険者になるための手続き諸々を済ませたおさかなはふんすと意気込んで、協会からまず最初にと案内された場所へと足を向けます。 　 　そして気づけば重たい剣を手に握っています。 「おさかなー、がんばれー」 「ひ、ひいいいぃ……」 　探索者になるための最初の関門、ミッション・眼の前の巨大なぶたさんを倒せ。 　これぐらいできなきゃ探索者は務まらねえとそういうことらしいです。多分。 　ちなみにおさかなはもちろん戦闘経験などありません。日々そこら中に存在する微生物と日和見感染しないため乏しい免疫力でバトってはいますが、こんな立派な剣を握って誰かに立ち向かうなんてことはしたことがありません。 　水中での戦闘は魚なので問題ないとはいえ、こんな立派な筋肉を持っているぶたさんを倒すことができるのか、否か。 　ちなみにかみさまは場外で応援中です。本当に生き返らせること以外はしてくれないようです。 （い、いや、できないかどうかじゃない、やるんだ……！） 　たとえ勝ち目なんてこれっぽっちも見えなくても、自分はかみさまと約束したのですから。 　絶対見れっこなかった広い世界を目にする代わりに、かみさまが遊べそうなものを見つけるのだと。 　そのためにはここを乗り越えないと前に進めません。 「やあああー！　……あ、あれ？」 　勢い良く振り下ろした剣は、けれどかすっと外れました。相手が避けたわけでもなくほんと見当違いの場所にこう、刺さった。 　あ、やばい、と思った隙におさかなの体に衝撃が走り、ふっ飛ばされます。すごく、すごく痛いです。 「甘い、そんな動きではこの世界でやっていけんぞ！」 　厳しい言葉が降りかかりました。やっぱり戦闘経験なんて全然ない自分には無理だったのでは。 　脆い自分の体ですから、既に起き上がることはできません。頭だって打ち付けたので意識もくらくら、眼の前は揺らいで。 　生き返らせてもらえることはわかっていましたから死への恐怖はありませんでしたが、代わりに胸を襲うのは弱すぎる自分への苛立ちと罪悪感でした。 *** 「……は！？」 「あ、起きた」 　次に眼を覚ましたおさかなの視界に映ったのは自分を見下ろすかみさまの顔でした。 　頭に接しているのが固い地面でなく温もりのある肌であるということに気付き、そこでかみさまの膝を借りてしまっていることにも気付いて慌てて飛び上がり隣に正座します。 「す、すすすいませんかみさま！？　膝借りてしまって、というか負けてしまって、それで、ぼ、ぼくが弱いばっかりに探索者になれなくて……！」 「何言ってんだ、あんたもう探索者認定されたぞ」 「へ？」 　きょとんと眼を丸くしたおさかなの前に、かみさまは紙を一枚差し出します。 　そこには探索者として認定されましたという旨が書かれた文章におさかなの名前。 　どういうことだと事態を飲み込めていないおさかなにかみさまは説明します。 「あんたが意識あるかないかで朦朧としている間に、先にあっちの豚の息が持たなくなったみたいで、ぎりぎりこう、ぶくぶくーって」 「こう、ぶくぶくー」 「そうそう、ラッキーだったな」 　ラッキーにもほどがありすぎる。 　なんて幸運なんだと身を震わせ涙目になるおさかなの姿に、かみさまはくすくすと笑いました。 「弱っちい身としては頑張ったんじゃねえの？　でもあれだと使い物にはなんねえから、探索いくまでにもうちょっと体強化させとくか」 「か、かみさまぁ～……」 「ちょっと出過ぎたサービスだけどな、これぐらいは許されるだろ」 　ぽん、とかみさまがおさかなの頭に手を置きます。その手がとても暖かかったので、おさなかの眼に溜まっていた涙はぽろぽろと零れていってしまいました。 　だめだったと思っていたことが大丈夫だった安堵と、自分を全く責めることのないかみさまの優しさ。 　意地が悪そうで自分勝手でわがままっぽい人だな、なんて当初は思っていましたが、かみさまは存外優しい方です。いや普通に考えたら戦闘経験のないおさかなが負けるのは当然のことなので、はなから期待していなかったせいもあるかもしれませんが。 　それでもおさかなはこれはかみさまの優しさなんだなあと思いました。そして人は、いや魚は優しさに触れると涙が溢れてしまうことを初めて実感しながら、「これからがんばります、がんばります」と繰り返し頷きました。

	穏やかな海《セルリアン》

穏やかな波、暖かい水温。太陽の光を透かし、キラキラと輝く水中に、
光とともに舞うように鮮やかな熱帯魚達が珊瑚礁に集まる海域。

この世界の窓口である探索者協会からも程近いこの場所は、
色々なところから集まってきたバカンス目的の観光客や、
これから冒険に挑もうとするものたちで賑わっている。

比較的凶暴な生物もいない、穏やかな、冬でも温暖の海である。

遺跡探索

（あなた）は、この世界の探索者としての一歩を踏み出した。
海底に沈む遺跡の探索——。

誰もがこの海の、この遺跡から冒険の一ページを刻み始める。
とはいえこの辺りはまだまだスタートライン。

もっとこの世界に眠る、謎や宝や未知の生物を目にしたいと願うなら、
このセルリアンの遺跡を抜け、さらなる海域を目指すといいだろう。

海はまだまだ遠く、広がっている。

——辺りは穏やかな潮の流れと、ちらほら入る光で暖かい。
まだまだ遺跡は先へ続いている……。

おさかなは周辺を探索…………。

焼き貝を手に入れた！

おさかなは体力を訓練した。
おさかなは体力を訓練した。
おさかなは体力を訓練しようとしたが、EXPが足りなかった。
おさかなは体力を訓練しようとしたが、EXPが足りなかった。
おさかなは体力を訓練しようとしたが、EXPが足りなかった。

目的の決定