空が見えた。 限りなく薄い青に色付いた、雲ひとつ無い空。 二度目だったので、それが故郷の空だとすぐにわかった。 ここは夢の中だとも。 飽きずに眺めていると、蒼穹を横切って小さな黒い影が走った。ご主人様だ。 あの方は飛翔の魔法がお気に入りだった。 出かける時は空をひとまわりして勢いを付けてから地平線の彼方へ飛び去るのだ。 どこかから帰って来る時も、同じ様にぐるりと円を描いてから家の庭に降りるのだった。 真っ直ぐに北の森を越えて行った空の黒点は、 やがてまた真っ直ぐに戻って来て、南の山の先へと向かう。 今見える点の動きは、目的も無くただただ空を楽しむ飛び方だった。 自分はそれを、地上に在って見上げている。

	「……。」

薄く目を開けると、宿の部屋の天井が見えた。 寒さを感じて布団の下で肩を竦める。 今日は行儀良く、ちゃんと三人それぞれ自分の寝台で寝ていた為か。 寒さには強いという自信があったが、どういう訳か、今はそれが気になった。 胸の中心が疼く。

	「……。」

もうひと眠りしよう。 昨日泳いだ海の中の光景を思い浮かべながら、目を閉じる。

	穏やかな海《セルリアン》

穏やかな波、暖かい水温。太陽の光を透かし、キラキラと輝く水中に、
光とともに舞うように鮮やかな熱帯魚達が珊瑚礁に集まる海域。

この世界の窓口である探索者協会からも程近いこの場所は、
色々なところから集まってきたバカンス目的の観光客や、
これから冒険に挑もうとするものたちで賑わっている。

比較的凶暴な生物もいない、穏やかな、冬でも温暖の海である。

遺跡探索

（あなた）は、この世界の探索者としての一歩を踏み出した。
海底に沈む遺跡の探索——。

誰もがこの海の、この遺跡から冒険の一ページを刻み始める。
とはいえこの辺りはまだまだスタートライン。

もっとこの世界に眠る、謎や宝や未知の生物を目にしたいと願うなら、
このセルリアンの遺跡を抜け、さらなる海域を目指すといいだろう。

海はまだまだ遠く、広がっている。