見渡す限りの海原とそこに点在する島々。その大部分を水に支配された世界。ここはテリメインという。 希少な陸地、その砂浜に一人座り込む少女が居る。 肉感的ではないもののそれなりに主張のある身体を網目状の変わった水着で包むその少女は、目の前の大海原を見てため息をついた。 少女は座り込んだままじっと海を見つめている。左右に分かれて赤と黒のツートーンに彩られた髪が波の彼方からやってくる風になびいた。 その姿は一つの絵画のようでもあった。主題の少女が浮かべる表情から銘を付けるのならば—— 「どうしよう」 この困り顔の少女。名をラジェルという。 正式にはラジェラツィエル＝ガリズサラクエル。時代によって分かれる四つ名を合わせたものだ。 最初は海というものを体感するために気まぐれで遊びに来ただけだった。 しかし今、彼女が手にしているのはここの案内人から貰ったスキルストーンという石。 ラジェルを探索者と間違えているようだがエントリーシートを書いた以上、無視を決め込むわけにも行くまい。 世界移動のルールとしては定番だが、ここでは彼女の『天使』としての能力はほぼ無力化されており現地のルールに従わねばならないそうだ。 「そもそも私、泳いだことがないわ」 呟くラジェルの前に広がるのは、天からの光をキラキラと反射する青く美しい景色。 今居る浜辺から周囲を見渡しても他に陸地は見えない。そして探索を依頼された場所はここから深く潜った海の底。 こんなところで座っていて事態が進展するはずもないのだが。 「ねぇ、今からでも引き返さない？　君だって濡れたら皺になっちゃうわ」 ラジエルが【こちら】へと視線を向けてきた。 ——紹介が遅れた。我は【セファーラジエール】。この世界の語り部にして、座天使ラジエルが執筆した書物だ。 強い神性を帯びたものにはたまにあることだが、我には自意識が存在している。 カーテンの裏で日がな一日記録に勤しむこともある彼女だが、天界でも最高位の一体だ。 彼女は宇宙の秘密を記した我を生み出すほどの力を持っている。 なお我は過去に一度他の天使の手によって海へと投げ捨てられた事もあるが、水没したとしてもダメになるようなやわな書ではないことも明記しておく。 「今、ちょっと舐めてみたんだけどすごく塩辛いわこの水。ぺっぺっ」 ……この年齢一桁の幼児かと見まごう行動をする座天使だが、これでも最高位の長であり世界を見通す我を生み出せるほどの知識を持っている。 実際は知識に偏りすぎていて実体験が伴っていないため、よくこういった行為が見受けられるが大目に見てやって欲しい。 「泳ぐという行為自体は識っているけれど。実際にはやったことがないわ。 　確か……特定の動きで推進力を得ればいいらしい。なるほど。簡単かもしれないわ」 すっ、と立ち上がり妙に自信の感じられる笑みを浮かべながら海へと入っていくラジエル。 あぁ何故だろう。その後ろ姿がとても不安なのだ。我に記された予言の力がそう感じさせるのか。 さて、この約束された未来へと向かう様を見届けるこの感覚は何と言ったか。 「ざばーん」 胸まで浸かる程度の深さがあるところまで達したラジエルが謎のかけ声を残して水中へと消えた。 その様子を【俯瞰視点】より見てみることにした。ぶくぶくと上がってくる空気の泡が前へと進んでいく。 どうやら上手く泳げているようだ。水質の良い場所であるためその姿は水上からでも確認できるだろう。 思いの外うまくやっているようだ。これなら心配は——と、思った矢先。ラジエルが突然泳ぎの姿勢を止めて水底に足を付けた。 それから考え込むように顎に手を当てている。どうしたのだろうか？ 「ぐぶじびば……（苦しいわ……）」 ラジエルはこの世界へとに顕現する際に、呼吸は必要であると答えていた。 我ら高次元の存在にとって酸素とは必須ではなく嗜好品である。だが彼女は人を模している以上、それを欲することに意味があると言っていた。 自分から弱点を増やしていくスタイルに疑問はあったがそれで満足するのならと我は何も言わないことにしたのだ。 彼女は今、その選択をもって窮地に追い込まれている。 ここで我は理解した。先ほど感じたお約束の展開を見届ける感覚の名は——【ですよねー】と呼ばれるものだ。 どうやら本当に生命の危険を感じたのか必死に手足を動かし陸地へと戻ろうとするが、気持ちが焦るばかりで動きに結果がついてきていない。 このままでは探索のスタートラインに立つ前にゲームオーバーだ。【神の神秘】たる座天使長がうっかり溺死とは冗談にも程がある。 仕方ないので助け船を出すことにしよう。私の声を念話へと切り替える。 《忘れたかラジエル。最初にこの世界の案内人から預かったものがあるだろう？　スキルストーンの力を使え。》 「ん……ばべっ！？（あれ！？）」 我の声に応じて身体のあちこちをまさぐるラジエル……だが見つからないようだ。 どうやら泳いでる最中にどこかへ落としたらしい。あぁ、我が主よ。いっそ一度くらい死んでみた方がいいのではないだろうか。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　※　※　※ 「ノアの大洪水に巻き込まれた生物ってきっとあんな感じなんだわ……」 紆余曲折、何とか海中から生還したラジエルだが初めての酸素欠乏は中々の衝撃だったようだ。 水に戻ることを嫌がる彼女を追い立ててスキルストーンを回収させたのち、今度は使い方を確認させた。 二度と無くさないよう杖に組み込んだスキルストーンの力を使えば、海中でも長く行動が出来る。 使い方は人それぞれの様だが、ラジエルの場合は思い浮かべたイメージをそのまま現実に転写できるらしい。 その効果で地上と変わらない動きを再現し、念じるだけで水中を素早く移動できるそうだ。流石は腐っても座天使である。 「しゃきーん。仕込み杖」 ラジエルが得意げな顔で杖内部の刃を抜き放った。この腐った座天使、何故に己と相性のいい魔力系統のスキルを使わないのか。 念話で聞いたところで我に存在しないはずの頭が痛くなるような返答が返ってきそうなので止めておくことにする。 「実は魔剣士にちょっとした憧れがあったのだわ」 そんなことは誰も聞いてない。 嬉々として刃を抜き身で振り回すこの精神的幼児に何故我のような高次元な書を執筆することが出来たのか。 神曰く——【セファーラジエールの中身、独自言語が混じってて著者のラジエル以外読めないからよく分からん。神がいうのも何だが奇跡じゃね？】 一体、我の中にはどの様な知識が詰まっているのだろうか。それもまた不思議でならない。 「心配しなくていいわ。私は全部識っているから」 念話にしていない我の思いを感じたのか、振り回していた刃を杖の内部に隠しつつ冷めた瞳でそう呟いた。 彼女はラジェラツィエル＝ガリズサラクエル。 座天使の長にして四つ名を持つ者。秘密と至高の天使。宇宙の真理を我に記した賢者。そして神の神秘。 ここでは無力化されているとはいえ本来の彼女が持つ秘密を見通す力は強大だ。それこそ予言者ともされるほどに。 海水の味。潮の香り。砂浜の感触。泳ぐという行為。溺死寸前まで窒息する経験。実際にやってみて、知っていた通りだと実感する。 これらは【既知の事実】を再確認しているだけ。つまり知識の体現なのだから。 「でも私、結構楽しんでいるわ。塩辛いのも息苦しいのも、体感してみると更に認識が深まるものよ」 にんまりと頬を緩め、歯を見せて笑う。それもまた彼女の本心なのだろう。 「さて、それじゃあ最初の探索にいってみるのだわ。 　私の知識はここに入るまでのもの。この世界を組み上げた神が今から創り出すものは私だって識らないわ」 彼女は己の既知を越える何かと出会うために世界を渡り歩いているのかもしれない。 だとしたら。いや、そうでないとしても。我は彼女と共に歩んでいこう。 そこで得た【識らないもの】の感動を分かち合える相手がきっと必要になるだろうから。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　※　※　※ 《ところで今回は何故そのような奇抜な髪色なのだラジエルよ》 「ここに来る前、緋天使と黒天使にあったわ。丁度よかったからこの世界で顕現するための姿をイメージしてもらったの。 　緋天使は燃えるような赤き髪。黒天使は漆黒の闇を思わせる黒を勧めてきたわ。どちらにするか迷った結果がコレ」 《混ぜてみたのか》 「私の名前と一緒だわ。せっかくアイデアを出して貰ったのだからどちらも活かしたいと思わない？」 《ラジエルがそれでいいなら我は何も言うまい。似合っていないわけでもないからな》 「ピロリーン♪」 《なんだその効果音は。口で言うな》 「私の好感度があがった音だわ。なお、他のヒロインも居るけど自分で見つけるシステム」 《……またしょうもないことを》 「デロローン」 《違う効果音だな》 「私の好感度が下がった音。悪化すると最後には海に投げ捨てられるわ」 《絶対に付き合わんからな》 「デロロロローーーン。今、好感度が大幅ダウンしたわ。ピンチだわ。崖っぷちだわ」 《ラジエル。それは他の探索者には絶対やるんじゃないぞ》 「それは嫉妬？」 《我ら天界の恥だからだ》 「……BADエーンド」 ——ぼちゃん、と何かが海に投げ込まれる音が響いた。

《海底探索協会》

《海底探索協会》

ラジェルは周辺を探索…………。

今回はアイテムを見つけることができなかった！

ラジェルはゴーグルを購入した。

ラジェルはSSシェルボックス(低)を購入した。

ラジェルはTGシェルボックス(低)を購入した。

ラジェルは体力を訓練した。
ラジェルは魔力を訓練した。
ラジェルは体力を訓練した。
ラジェルは魔力を訓練しようとしたが、EXPが足りなかった。
ラジェルは器用を訓練しようとしたが、EXPが足りなかった。

座天使の杖　【文武両道】 に 攻撃力強化 を実行！
座天使の杖　【文武両道】 の 物理攻撃力 を 2回強化した。

座天使の杖　【文武両道】 に 魔導力強化 を実行！
座天使の杖　【文武両道】の強化回数限界！
日数回分までしか強化は行えない。

目的の決定