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"A sailor went to sea, sea, sea To see what he could see, see, see But all that he could see, see, see Was the bottom of the deep blue sea, sea, sea" --Nursery rhyme
「水兵は海へ行った、 何かを見るために。 しかし彼が見たものは、 ただ深く青い海の底だった。」--わらべ歌
ある港町。 わらべ歌を口ずさみながら子どもたちが手遊びをしている。
「どこのガキだ?縁起悪ぃ」
せかせかと町を歩きながら男は呟いた。 男はバンダナの上から三角帽子を被っていた。 腰には銃と剣といくつかの薬瓶を帯び、 そして特徴的な円筒《シリンダ》を携えていた。 スキルストーンだ。 このあたりの住人が見れば、一目で"探索者"だとわかる風体だった。 男は自分の船に乗り込むと慣れた様子で乗組員に指示し、碇を上げさせて、 さっさと船長室に入っていった。 船長室には薬漬けにされた水生生物の標本や、 いくつかの遺跡の場所を記した未完成の海図、 それに銘柄も色もバラバラなラム酒の瓶がいくつかあった。 男がどさりと椅子に腰を下ろすと、金属管からがさついた男の声が聞こえる。
「風は穏やか、波も穏やか。青い空に青い海、雲もまばらで水平線までばっちり見えてらぁ。 いい天気だなぁ、旦那ァ。昨日のババアはあんなこと言ってたが、 夕べは嵐の女神様でも口説き落としたのか?」
男の頭に占い師の言葉が浮かぶ。 "嵐だ。あんたは嵐に出会う。あんたは海の底を見る。深く深く青い闇を見る。" そして、夕べのベッドを思い出す。
「そういや、昨日抱いた女は嵐《テンペスタ》とかって名だったな。 嵐のように絡みつくいい具合だったぞ?」
「そいつぁ、よかったな」
金属管の向こうからでもあきれている様子が男の目に浮かぶ。
「だが、今朝からへその下が魚臭くてしかたねぇ」
「がはは、タコにでも化かされたんじゃねぇか、旦那ァ? まぁ、変なもんもらってねぇことを祈るぜ」
「そうしてくれ。あー、あとテキトーな薬草を持ってきてくれ」
「あいよ、旦那ァ。おーい、薬屋!!船長んとこに飛び切りきつい消臭剤持ってってやれ! 股ぐら以外に足と脇の分もな!」
船長は鼻で笑いながらタコが描かれたラム酒の瓶を掴み、乱暴に口へと運ぶ。 クセになる香辛料の香りとラムの香りが鼻を突き抜ける。 彼は薬草が届く間はこれで耐えるつもりのようだ。
海の旅路は非常に穏やかで、絶好の探索日和といった感じだった。 目的地に着くと船は慎重に碇を下ろす。 幸い遺跡を崩したような音はせず、海底に落ちたようだ。 甲板には乗組員全員が揃い、青い海を見下ろしていた。 先頭に船長が立ち、その後ろに並ぶ乗組員の一番右の男が叫ぶ。
「総員!ストーン機構接続!」
その号令に合わせて全員が腰や腕に付けた円筒《シリンダ》から綱管《ケーブル》を伸ばし、 銃や刀剣など、各々の武具に接続する。
「ジェム装填!」
そして、円筒《シリンダ》に色とりどりの様々な宝石を入れる。 すると円筒《シリンダ》の計器《メーター》が右に振り切れる。
「充填確認!」
一番右の男がそう言うと、残りの乗組員が「確認!」と続く。
「よし、野郎ども!お宝探しだ!気合入れていくぞ!」
「おう!」と、全員の息がそろうと、船長を先頭に全員が海に飛び込んでいった。 海の中も海面と同じく穏やかで、澄んだ青の向こう、 スキルストーンの光に照らされてそれは姿を現した。 遺跡だ。 海藻や珊瑚が付着して海底に溶け込んでいるが、 その形状は明らかに人工的なものだった。
ふと一行の視界を横切る小魚の群れ、 その一匹に吸盤のついた触手が絡みつく。 そして吸盤の一つから針飛び出し、魚の眉間を貫いた。 その触手は"脳髄喰らい"と名付けられた船長室の小瓶にあったものと同じ形をしていた。
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