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セルリアンに面する浜辺に、1軒のレストランが建っていた。
<ウミネコ亭>と書かれた看板(何故か脳がそう書いてあると理解できる)の下に開かれている店内には、木製の床、椅子、テーブルが置かれている。 「やあやあどうもいらっしゃいませ! お客さん何名様でしょうかね!」 そして元気な太った竜人が店内から出てきながら声をかけてきた。 厨房からは料理の仕込みをする音が聞こえてきている。 「うちの店は異世界提携しているからお金はこの世界の通貨じゃなくてもいいよ! むしろ金とか宝石とかそう言った部類の物の方が換金の手間が省けてありがたい!」 「お金もない? だったらちょっと魔力を頂こう! なぁに一晩ぐっすり寝ればすぐに戻る程度の量さ! 血を抜き取るわけでもない! 異世界の魔力と言うのは中々これが高価な取引素材になるからね!」 何も言ってないのにまくし立ててくる竜人。
店の入口に置かれているメニューには魚料理の他に、豚、鳥、牛、馬、更には鳥馬や竜の肉等の文字も目に入る。サラダの項目にも通常のメニューの他、マンドラゴラだのキラークリーパーだの中々物騒そうな名前があった。 中にはシェフのお任せメニューなどというのもあるが……。 地球の日本と呼ばれるところの通貨で換算すれば1食500~1000円といったところだ。
「こんな店先で立ち話しているのも悪いし、まま、とりあえず座って食べて行ってみないかい?」 竜人の男はそう言って、ふくよかな腹を揺らしながらお辞儀をして店内に向け腕を差し出した。
「ああそうだ、こいつを出すのを忘れていたよ」 そう言って店内から引っ張り出してくるのは手書きの看板。 【今日の半額気まぐれランチ】と書かれている。 その内容は―――
【食用カタツムリとたっぷり野菜を煮込んだシチュー】
食用カタツムリ。地球ではエスカルゴなどが馴染み深いだろうか。 別世界となってもそれは変わらず、中々に美味しい珍味である。もっとも、味や食感等、多少の違いはある物の。もちろん殻は除いております。 今回はそれをシチューの肉の具材にしてみました。ツブ貝にも似たコリコリとした食感が濃厚な匂いのシチューに包まれて堪能できる一品。シチューはクリームとカボチャから選べます。牛乳が生理的にダメな人でも安心。 また、ブロッコリー、ニンジン、ほうれん草などたくさんの野菜がゴロゴロと煮込まれているので栄養バランスもばっちり。 食べられない野菜がある場合は注文時に申し出て下さい。鳥覗いてお出しします。 人間の方でも、見たことが無いという食材はあまりないと思われるので、気になるけどメニューで敬遠していたという人はこの機会にぜひ当店の味を知ってみてはどうでしょうか。 夏なのにシチュー? こまけぇこたぁいいんだよ! | | |