砂礫が舞い散る、平坦な道すがら。

手首に纏いし古びた紐に、不思議と手が触れる。

ヤツが【居所】と呼ぶ印は、未だ変わらず此処に有り。

彼の身体に残らぬ傷の様に、露と消え去ることは無かった。



嘗ても今も、姿を消すヤツの後を追えた試しは無く。

さながら風の如く吹いては、匂いも残さず消え行くのみ。

否、今や匂いをすら満足に追える身ですらなく。

この狭き地が齎す、偶然こそが邂逅の全てであった。



それは我らが出会いし山里より、何一つ変わり無きことで。

双方の間に必然など、元より有らず。

さればこそ、互いを許すと相成ったモノであろう。

高く舞い上がる旋風に、共と成り得る翼は堕ちたのだ。



今再び、手首に括られた髪紐を撫でる。

それは不可思議な力の一端を、色濃く其処に齎して。

妙なる事に、花冠の在る場所が感じられる様であった。

さながら、結び紐にて引かれるかの如く。



同行していた二人に呼び掛けられ、我に返って前を向く。

何処へ行くでも無く、道案内を承諾した道すがら。

まずは此の場を進まんと、手首の紐から指を離す。

相も変わらず、此の場にヤツの姿は無い。



されど、手首より感じる導きが。

再度の確実な出会いを、そこに満ち溜めて、揺らめいた。

強い語調で言って、数度蛇龍を指すと、そちらが喋り出す。

どうする、と問われれば、どうするの、とばかりに少年が龍を見る。
龍の方は、その視線にそう頓着することはない。

上がる盛大な溜息をも、龍は全く気にした様子がない。泰然というべきか、横暴というべきか。

　言い直すも、想定していた名前が返ってきたので頷いた。

　間違いがあったか？　と続く言葉を聞いて、

　えっ何か凄まじい勘違いをされている。どうしよう。
　暫く困惑していたが、小さく首を横に振り、フィンヴェナハに向き直る。
　それから、決然たる語調で。

首を左右に振る。

なおも相手に詰め寄られれば、その表情は混沌を極める。

自信のなさを示すかのように、後手に組んでもじもじとさせている。

静かに、武器を構える。
一つ、深呼吸をして、相手を見据えた。