不思議と、落胆は少なかった。

そう簡単に見付かるべくモノでは無いと、されど焦る心は変わらぬまま。

共連れの中でも、一際大人しげな少女が口を開く。

質問に対し視線を返すと、少女は小さく肩を震わせた。

間に割って入るように、金髪を揺らしながら少女が声を上げる。

　　　　　　　　　　　


——…


……


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．


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石床の冷たさに体躯が震え、目を覚ます。

身体を起こし、縮こまった身体を解して、筋を温める。

他の者も、この硬い石畳の上でよく眠れるモノだ。


そう思い周囲を見渡せば、寝息を立てて居るのは二人のみ。

『何でもない屋』を名乗る男と、その連れ合いの短髪の少女。

余程に旅慣れしているのか、身体を弱らせる事なく、器用に休んでいる。


残る二人の少年は、少し離れた場所で並び座っていた。

どうやら、得物の手入れを行っていた様子。

二人とも、忙しなく腕を動かし、武器に磨きを掛けている。

二人の傍へと近付き、腰を下ろして様子を眺める。

双方とも、互いの武器を見せ合いながら、熱心そのものに。

特に耳付きの少年に至っては、普段より顰め面ばかり目にしている。

そのせいか、朗らかに語る様子が、妙に新鮮に映った。

僅かに口角を上げたノエルが、目配せをする。

いつの間にか、得物は傍らに置かれていた。

互い互いに、己の状況を打ち明けてゆく。

追われるモノに、迷い込んだモノ。

総じて見れば、取るに足らない、在るべくして在るモノばかり。

それは我もまた、等しく、同じく——

陰気な場所を好むかと思えば、そう簡単でも無いらしい。

ヤツの荷も笠も、全てが未だに手の内にあるまま。

されど、今のヤツには、どれ一つとて必要の無い様にすら思えて。

この耳付きの小僧は、相変わらず慎みと言うモノを知らぬ。

そのようなモノは詮索すべきでは無く、また無理に表す必要も無いのだ。

されど、答える言葉が無いことも、己の認識の浅さを示す様で。

ふと、その時に脳裏に浮かび来たるは、夢中にて聞こえた言葉——

思いの外、二人の反応が悪い。

あれ程に力説されるモノながら、この態度の違いはどうしたことか。

急に口をへの字に曲げ、言葉を折る。

もっとも見慣れた、いつもの表情へと戻った。

通路内に、暫しの沈黙が横たわる。

言葉一つで、この突然の空気の重さは、一体どうしたことだ？

その上で、誰も理由を告げようともしない。

やる方無く思考を続けていると、不意に背後から声が掛かった。

振り返り見れば、先ほどまで寝こけて居た男が其処に。

いつの間にやら身支度は整えられ、手には大剣を握り締めていた。

いやに自信に満ちた態度が、己の神経を逆撫でる。

されども表に出さぬよう、努めて。

続く男の言葉に、思考を傾ける。

一通り言い終えると、男は返事も聞かず、大剣を担いで歩き出した。

三人の背中を見送り、再び冷たい床に座る。

通路の奥からは、猛る声が幾度も反響しては消えて。




示されて尚、理解したかも分からぬ。

されども、同じ言葉ばかりが、頭の内には響き続ける。

見て見ぬ如きにして来たもの。

或いは、見るべきモノを見ずに居たものが、何処かに在る様に、思えて。




小気味良く響き渡る掛け声は、いつまでも規則正しい拍子を刻み。

それは次第に、我が身を心地よく包み込み始め。

知らず知らず内に、我は再びまどろみへと、深く沈み込んでいた。



（今回の日記文中にて
　Eno.55 シャルロッテ・フロワーズさん、Eno.139 名乗らずのナナシさん、Eno.280 クーリア・ヘリアンサスさん
　Eno.353 ティルム・ヴィーダさん、Eno.1023 トート=ロードストーンさん、Eno.1161 ラノエルージュ・カネルベージュさん
　以上の方々をお借りしました！　ありがとうございました！）

身の始末を決めろ。つまり自分で自分の道を選べという事。
だが、それは。『道具』である私には手が届かない事で。

話しながら、胸の奥がずきずきと痛みだすのを感じた。
かつて私は自分の道を自分で決めたから、私や私の周囲は不幸になった。
だから、私は『道具』となり、誰かに生きる道を決めてもらう事を望んだ。
それなのに、自分で自分の始末を決めろと言われても、どうしようもない。

一瞬、一人の青年の姿が瞼の裏に浮かんだ。
……いいや、私は彼の『道具』。彼に護られる訳にはいかない。
今の彼はきっと、私にそうする義理もないだろうから。

解放された後も、少年はわたわたと細かい動きをしてみせる。

自分の頭の上に手を置き、それを水平に動かして女性との身長差を確かめている。

未だに緊張の姿勢を崩さない。
とことん気弱そうだ。

でも、そういうのがきっと大事なんだろうな・・・

静かに刀を抜き、構える。
そのまま、敵前へ向けて歩を進めて行く。