夢から目覚めた龍の心根は何故かとても晴れやかなものだった。

早朝の朝霧が晴れるか晴れないかのうちに、龍のこの世界での戦いの始まりとなった岩場を目指す。
岩場からは城下が一望できた。
街には少し霧がかかっていたが、ここは高台のせいもあってか陽光が龍を強く照らしていた。
龍はたびたび夢を見ている。
それは、全て龍の記憶にはないものであった。
浮き上がっては消えていくビジョンは、しかし龍に強いデジャブを感じさせた。

恐らくは、それはかつての龍自身の記憶と何らかの繋がりがあるのだろう。

今までみる事のなかったそのビジョンは、この世界に来てから急に浮かんできたものだ。
初めて来たこの世界で、浮かぶさまざまな断片…
それが何の意味を持つのかは分からないが、それでも龍にとっては大切なものに思われた。
そして、その断片の中で、強い誇りを感じさせる同胞に会えたことがうれしかった。
グラデーションの中に沈んだ城下は、その光に透過され、やがて稜線を露わにしていく。
龍は岩場から、一献傾けながら眺めていた。

陽光に露わにされた城下町は普段より少しだけ美しく見えた。

触れた瞬間に小さくぴくりと震えたが、抵抗する様子はなく撫でられる。

撫でられ慣れていない様子で赤面しつつ、小さく顔を上げて「よろしくお願いします」とささめいた。

この街でも尚、長い滞在は難しいのかと問われれは龍を見返し。

そう言って遥か、遠くを見遣った。

龍は両腕を脱力させ、下ろした状態で低く構えた。



彼の右頬がわずかに釣りあがる。

ふいに殺気をまとっていく——

彼の両腕がまるで別の生き物のようにうねりを上げた。

そのさまはまるで四肢の無い爬虫類のようだった。