「……随分賑やかになったわね」

　軽く休憩をしていた折に、彼女が唐突に呟いた。
　いつものように小声で、囁くような声だったが、私が聞き漏らすこともない。

　──パーティのメンバーに、深く関わる気はない。
　付かず離れず、愛着を持たず、かといって疎遠にもならず。
　お互いに益のある関係を続ければよい、と考えている。
　彼女達の人柄に興味がないことはないのだが。
　共に戦う身であるということと、私の最終目的に、彼女が関係しないことから、不用意に情を抱いてしまうのは危険だからだ。

　ただ、エンブリオ達はそうも行かないらしく。
　長いこと水辺で変わりない景色を眺めていたからだろう。退屈になるのは理解できる。私だって飽きてきた。
　だから、ツバキやユリなんかは、エンブリオや私と積極的に話をしようとしたがる。
　ツバキに関しては、何処からか友人まで引っ張りこんで来て、延々大騒ぎしているくらいだ。

　その点で言えば、サクラが例外なのかもしれない。
　彼女は──そう、私以外とは積極的に言葉を交わさない。

　そこに、意味が無いとでも考えているんだろうか。


　「淋しいよりはいいだろう？」
　「そうだそうだー」

　私がそう答えると、彼女は心底疲れ切った表情をした。

　「静かな方が好きなのよ」
　「私と二人で旅をしていた頃は静かだったか？」
　「ユライがいちいち煩かったわ」
　「なら大差ないじゃないか」
　「騒ぐひとが一人なのと、複数なのとでは天地の差よ」
　「そうかなー？」
　「……貴女が一番やかましいからね、ツバキ」
　「えー、ユリちゃんは？」
　「あの子は歌うのが仕事だから仕方ないの」
　「それは差別じゃないかな！」
　「サクラ、仲間内の好き嫌いはよくないぞ。公平に接することだ」
　「公平に嫌気が差してるんだけど……」

　そう言うと、彼女はとびっきり大きくため息を付いて、そっぽを向いた。
　会話を止める意思表示のつもりだろうか。
　だが、長い付き合いの私には、その仕草の示す意味がはっきり分かるのだ。

　「ははーん」
　「……何よ」
　「『偶にはこういうのも悪くない』、ぐらいかな？」
　「……ユライ、殴るわよ」
　「ねーねーユライさん、今のってどういう意味？」
　「簡単さ。サクラはツンデレってこ痛っ！？　いきなり殴ることないだろサクラ！？」
　「ちゃんと予告はしたわよ？」
　「サクラちゃん、サクラちゃん、ツンデレってなーに？」
　「……ツバキ。レベル差を考えて発言した方が身のためよ」
　「えー！？　何でー！？」
　「あらあら〜。仲間割れはいけないわよ〜？」
　「ユリさん。これは仲間割れじゃないの。……エンブリオ間の明白なカーストよ」
　「より酷くないか？」
　「サクラちゃん怖いー！　優しかったサクラちゃんは何処に消えた！」
　「……元々サクラはこんな感じだぞ」
　「確かにそうかも？」
　「ツバキはよっぽど私にお仕置きされたいようね」
　「わわー！？　待ってー！？　今のは絶対ユライさんが悪いよー！？　ねぇ、ユリちゃん！」
　「私はノーコメント♪」
　「逃げないでー！？」

　わいわいがやがやと言い合うサクラとツバキ。
　騒ぎに気付いて何処からか乱入してきたユリ。
　ツバキを守ろうとするもサクラのことが怖くて影に隠れているネジマキ。
　
　私は少し嬉しい気持ちになっていた。
　そんなくだらない騒ぎの中で、彼女が変化してきている、と思えたからだ。


　（……やっぱり、二人だけでは駄目だったのかもな）


　サクラにも、より多くのひとと関わる機会を、もっと早くから与えておけばよかったのかもしれない、と思う。
　それを躊躇う理由なんてものは、彼女に無為な制限を与えてしまっていただけで。

　──そういうもののことを、偽善、と呼ぶのだろう。


　「ま、そもそも私は器用ではないんだ」

　誰にも聞かれないように言い訳をしてみた。
　彼女の耳には届いたかもしれない。


　私自身は、さて、どうなんだろうね？