(今回はPTM、練習試合相手の日記とリンクしています）
失ったものは戻らない。それが自然の摂理というものだ。
それが何であれ例外はなく、たとえ万象を歪める呪いでさえも、それを成し遂げることはない。

柊　真依は死んだ。柊　魔異の手によって殺された。
影羅などという存在は幻想だ。魔異の双子の妹である彼女もまた、『ブラッククロニクル』を持っていた。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　か
だから、その異形は怪物でも悪魔でもなんでもない。ただの彼女自身の『改竄』わってしまった姿。
その異形を、同じ異形を生み出す力で殺した。ただそれだけの話。ただそれだけのこと。

であれば、『Mai』とは一体何なのだろうか。
柊　魔異には、所謂『幽霊』が見えなかった。冬花の瞳を借りてなお、漸く存在を認識出来る程度には。
それなのになぜ、彼には彼女の姿が見えていたのか。
異形になった筈の彼女が、人の姿を持って彼の前に姿を現せたのか。

答えは単純なものだ。
彼女の存在もまた、柊　魔異が自分に吐いた嘘の一つというだけのこと。
　か　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ロール
改竄わってしまった彼のスマートフォン。役割を与えられたもの。

そうしてその真実は、魔異自身も知ることになる。



妹の命を奪い、自らの過去を改竄し、罪から逃げ続けていたことという真実を。



————だから、柊 魔異は、『俺を殺してくれ』と言った。



ひとつの扉もなくひたすら続く大廊下。
床にはレッドカーペットが敷かれ、壁には見事な彫刻が施されている。
そこには異形の者に対して跪く民が描かれており——

そうして、絨毯の上には相対する二つの影があった。
森を越えて、王城の大廊下に辿り着いた矢先の出来事だ。
再び能力の暴走に苛まれ、菫の爪は弓使いの少女へと向けられていた。


「……ユ、パ……」

少年は、彼女を傷付け難く思っていた。
少女が唇を強く噛む。瞳に涙が溜まっているのが見えた。

「俺が、俺であるうちに……！」

少年は、最後の最後まで人のままでいたいと思った。
少女が矢筒に手を添える。指先が震えているのが分かった。

「俺が、君を傷つけてしまわないうちに……！」

少女が手を止める。彼女の弓は矢を吐き出さない。

「マコトさん」

遅れて集合する仲間たちを目に留める。
こうなれば、もはや一刻の猶予も無かった。
きっと、彼がもっともその目的を遂行出来る存在だから。

「『ソルト』」

————だから、柊 魔異は、『俺を殺してくれ』と言った。

三人が追いついた先。
菫色の気配を纏った少年の姿がそこにあった。
辺りには、敵意の雨。凶暴化した大草原のエンブリオたち。

慌てて後を追った先。敵意の雨の中佇む姿に、声を失う。

追いついた、その先。野良エンブリオに囲まれた姿に息を呑む。
今の彼なら、敵うのだろう。けれど、今の彼は『敵おうとするのか』。
ぎりと唇を噛み、走る速度を上げる。

なんか出てきた！

なんか言い出した！！

こっちは悠々と空を飛ぶ！落雷だらけで大迷惑！

とても胡散臭い

むせながら、さっとハンカチを取り出した。

叫ぶ。絶叫する。
菫爪が首を掻き毟る。鮮血が撒き散らされる。それでも少年は死んではいない。
菫の瞳は彼を傷つけない。
　 か
改竄わっている。首元が、鱗のようなものに覆われている。

我を失っている。否、我があるからこその悲痛な叫びに。
掻き毟る姿に駆け寄ろうとするけれど、ひゅ、と伸びてきた攻撃の手に足を止められる。

悲鳴を、焦りを飲み込む。もう、その感情に染められるわけにはいかなかった。
大丈夫。自分がするべき事は、もうわかっているのだから。
掲げるように上げる腕。指先。それを、彼へ襲い掛からんとする一体へ。

少年の言葉にどこか寂しげな様子で見つめて。
嵐の前の静けさのような、その穏やかさに逆に言葉を失う。
謝罪の言葉も逃げろという言葉も聞こえない様。

それ以上は何も言わず。答えも無理には求めない、まま。

少年が右眼を覆って苦しんでいる。
彼はその能力を制御しようとするのに精一杯で、向けられた攻撃に対処する術など無い！



けれど。

ゆっくりと。
揺らいでいる。水面に揺蕩うように、穏やかに。
けれど、それは狂気を孕んで——

——不可視の人影が、少年に加護を与える！


ソ　　　バ　ニ　　　　　　　　　　　　　イ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ル　　　　　　　　　　　　　　ヨ　

死を懇願する声は耳に焼き付いて。
知らないものが在る。知らない気配が在る。
それでも、娘は凛と前へ立つ。
何が正しいのか、どうすることがいいのかはわからないけれど。

いつかの森を、思い出す。
けれどあの時と確かに違う確固たる意思を、全員が、持って。
似て。違う。望まない光景に、やめてください、と小さくもらす。
——殺意に、凶器に、狂気に。

https://dl.dropboxusercontent.com/u/69846349/ikki/d26_battle.mp3

魔力を通して見える空間が、歪んで見えた。
それはマコトの能力の本質——変えていく力。
マコトの『世界を改変する』能力は、いつか『世界を壊していく』。
『世界を守ること』を刷り込まれたメィレーの手が、本能が、マコトを壊すために—————

みつけた　『みつけた』　みつけた　『みつけた』　みつけたみつけた