[SIDE:Aquarion]



あの引き分けから少し経った。



アンナは何かが欠落したように無気力になって、不機嫌になって、今はがむしゃらにふらついて武器を振るっている。

他のメンツは……コジローは私の指示通り地下牢に向かったら、どうやら不幸が起きたらしく、身包み剥がれてしまったらしいし

ヤタは、引分けしてどっちかというと安堵してるらしいが、この件についてアンナにお灸を据えるらしい。

クウは…………何も考えてなさそうではあるわね。ほんと、アンナと大違い。本当に姉弟なのかしら……。



何も変わらなかった。

各地で集めた『狩りの原動力』をアンナの脳に直接注いで、自らの目的をはっきりさせておいたのに

ベストコンディションで戦闘に望んだのに

一度勝ったことのある相手だったのに



まだ何か、足りてない。

一体何が。アンナの『原動力』は確保した、戦いの在り方はしっかり教えこんだし

武具や防具も、それなりの物を用意した

なにが、足りてないの。







ふと、ヤタの引き連れてるキョンシーの言葉を思い出す。



『………貴方が、アンナさんを駄目にしているのですね。
善意から貴方は、アンナさんから思考する機会を奪っている。
……奴隷が、自らの境遇に気付く機会を。』

『……しかし、今それは必要なのでしょうか…？』

あの言葉は真理かもしれない。

私がアンナを縛り、自分の好きな様に動かしている。



私が、満足するために、アンナを利用して……

いつのまにか、背後にアンナがいた。あれから変わらない、無表情の不機嫌面のままで。

契約の解除……ネクターを捧げることによって行ってきた契約を解除するということは

注いだ分のネクターがある程度戻ってくるというもの。

通常、エンブリオとは10種類しか契約できず、新しいものを得るために古いものを捨てるということはよくあること。

解除されたエンブリオは……野良に戻るか、行き場をなくして野垂れ死ぬか、あるいは……

彼女は、どんな顔をするだろうか。

















『善意から貴方は、アンナさんから思考する機会を奪っている』



わかってる、そんなことわかってるわ。

今だって、アンナがいきなり契約解除の提案を投げかけてきたことに驚いてるんだから。

アンナに余分なものを持たせず、精一杯武器を振るわすために、私が代わりに脳みそになってるんだから。



『しかし、今それは必要なのでしょうか…？』



しらないわよ、そんなことっ！

私にだってわからないわ！アンナをどうしたらいいか！私がどうしたらいいか！最善は！打開策は！

頭をとても低くさげて詫びた

そう言うと、青年はアンナに近寄ろうと歩を進める。