呼ばれた。
ふと、見覚えのある場所で、自身に無いはずの瞼を開いたカーキアスはそれを感じとった。
誰が呼んだのか、その答えは目の前にいた。
影よりも黒い女がこれまた黒い椅子に腰かけ、黒いカップから何かを楽しげに飲んでいた。

上機嫌な声でサラサラと宙に指を這わせる。
軌跡は見覚えのある一人の呪術師の顔を描き、サラリと消えていった。

きゃっきゃと、子供のようにはしゃいだ声をあげる。
そう、彼の呪術師の見せた光景は、ここまで『それ』を滴らせたのだ。

口元の赤が大きくなる。愉悦。笑み。笑み。
心の底から楽しそうに甲高い声で笑う女は人差し指を立てる。

そう言って立ち上がると、スルリと音も無く近づきカーキアスの額に手を当てる。

ここで案山子の目が覚めた。
最も、案山子であるカーキアスが寝ることは無い。
遵って、案山子の身体に意識が戻ってきたと言うべきであろうか。
案山子は今見た夢の事は覚えていない。案山子に夢を記憶する場所はないからだ。
しかし、違和感は覚えている。自信の身に何かが起きている違和感は。

————————

農民主義的自治武装細胞報告書

トキサメを名乗る者を撃破！
少しだけ罪悪感を感じるが気にしないものとする！
砂地の原生生物と対峙！
可及的速やかにこれを撃破とし、進行するものとする！
引き続き砂地を進む！
……進む！進むのだ！！嫌々でも！！

＿φ(‾Ω‾；)

案山子が撓った…！？

気のせいか、風のせいかと思ったが、

さらに撓る、文字を画く。

筆の動きに思わず注視して……

お互い見つめあう形になり、やがて案山子が跳ね寄る。

何か用かと尋ねられ、

いや、案山子で正しいのか？と疑問を浮かべるが、

　————ぱちん、と。
　手を打ち鳴らす音。
　それは、『思い出せ』と自らに向けた文字と重なるように、周囲に響いた。
　呪術師は語らない。呪術師は動かない。一息に書き記した文字が止まるまで、『呪術師』は其処に居た。

　呪術師の呼んだ『名』は、まるで別のもののように聞こえた。
　板から顔を上げれば、其処には、変わらぬ微笑みが貼りついた白い顔がある。