この世界に来てから何日目かの夜、私はふと身につけているペンダントから時風の気配がないことに気付いた。
私と共にいるのが嫌になって逃げ出したのだろうか——別にいい、一人になるのは慣れている。
そんなことを思いながら今日の夕飯の準備を進めていると、ふと感じた強い風。
その風は戦いの中、何度も私の背を押してくれた風で——戻ってきたのかと内心驚きながら、振り返った。

「玉藻、玉藻！大変なの！」
「大変って、一体何がです……か……」

振り返った先にいた時風を見て、思わずぽかんとしてしまう。
私の目の前に現れた時風の腕の中には——ぐったりとした、彼女と同じように微かな光を帯びた少女がいた。

【——眠っていたようだ、膝の上に乗せた一冊の本を枕にしていたらしく、
　上げた顔…額が真っ赤っ赤、周囲を見て、誰も居ないのを確認すると、
　少しだけ赤面しながら立ち上がり、身嗜みを少しだけ整えた。】