その夜、エッダは執事と契約した時のように、不思議な夢を見ました。

昔々のお話です。在るところに心優しい青年がいました。しかし青年はとても貧しかったのです。
青年はとても信心深く、どんな不幸の中でも神を信じ、善行を行ってきました。
自らが餓えている時も、道に餓えている者があればパンを差し出す。
その心の清さに感心した神の使いが、青年に語りかけました。
『君は、自らの幸福よりも、人の幸福を心から望める尊い人物だ
　私はそんな君の清らかさを愛さずにはいられない。どうか、私に君の幸福を祈らせておくれ』

そして神の使いは青年にとある祝福を与えました。

青年にひとつ、幸福をもたらし、青年がその後また善行を行えば次の幸福を与えるという祝福でした。
心優しい青年はみるみる幸福になっていきました。
その傍らには優しく微笑む神の使いが。青年は莫大な富を得ても、自惚れる事なく
神と神の使いに感謝をし、財産を独り占めする事なく、恵まれない者の為に使いつづけました。

やがて青年は愛する者を見つけ家庭を持ちます。
心優しく清い青年はその後も善行を重ね、一家に莫大な富をもたらし
たくさんの人に愛され、偉大な人物として幸せな一生を終えました。
そしていまわの際に、神の使いに『どうか、これからも私が愛した家族達を守ってはくれまいか』と願ったのです。
神の使いはもちろん、と頷きました。

しかしそこでめでたしめでたしではありません。
青年の子供は、彼の遺志を継ぎ、欲に惑わされず、富に溺れずに善行を積みました。
しかし、その正しい人物の子がまた、まっすぐに育つとは限りません。
富と愛と言う名の甘い蜜で育った者には時にはとても自己中心的な者もいました。
受け取った幸運の分を善行で返さなかった者には不幸が訪れました。
病・早死に・少しの幸運では取り返せない程の不幸、形は様々であれ、
まるで呪いのように善行を行わない者に不幸が襲いかかりました。

次第に一族の中で、偉大であったはずの青年や、神の使いへと恐れと怒りを向ける者が増えてきました。
この『呪い』と決別しなければ一族が残した富を守れない、と高名な魔術師や戦士を雇い、
神の使いを封じようと試みたのです。そんな一族の人間達に神の使いは激怒しました。
襲い来る戦士達との戦いが始まります。本来ならば人の傷を癒し、
祝福する存在である神の使いは傷ついた戦士達の傷口を腐らせる悪しき力を使いました。
あふれ出る絶望と憎悪を止められず、やがて悪しき者へと変貌していきます。

しかしそんな神の使いも、高名な魔術師に敗れ、力を失い封じられました。
戦士達は神の使いの殺害を試みましたが、神の使いの肉体は力を失い干からびはしても、
火により燃やす事も剣により刻む事も出来なかったのです。

聖なる存在だったものの祝福は封じられた後もなお、時折一族に降り注ぎました。
それから長い時が過ぎた今でも、一族にの血を引く者には神の使いの祝福の証しである、
神の使いと同じ色に染まりゆく髪の持ち主が産まれるといいます。

その人物は幸運を得て善行を積めるのでしょうか。それとも欲に溺れて破滅へと向かうのでしょうか。

また、神の使いも長い時を経て、悲哀と憎悪に満ちた血によりよみがえります。

めでたしめでたしは訪れないままに。

・・・そこでエッダは夢から覚めました。

夢の中の人物の顔などは一切思い出せませんでしたが、
いつも腹の立つ事ばかり言う天使に対して、憐れみのようなものを感じました。
少年はまだ、大きな絶望も、裏切りも、抱えきれない怒りも本当の意味では知りません。
この先生きていくなかで、そういった感情を抱くような出来事があった時に、自分はどうするのか。
ぼんやりと考えてみても、答えはでませんでした。

　　　△　　土　▲
　　（　㊤　皿　㊤）　　がしゃーん
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　／│　　塊　　│＼　　　　　　　　　がしゃーん
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