何度か問いかけて来た。
　問いかけに答えてくれる人を得て、その答えを得た。
　けれど答えはまた、問いと迷いを与える。
　ならばまた、問いかけに行こう。
　いつかまた答えを得て、問いと迷いを得るために。

　——————————————————

　主君が道を間違えたとしても、守り、正すのが騎士の役目だと、そう答えてくれた人がいる。
　フーキ・イートン。辺境の貴族に仕える騎士だ。
　奇妙な縁だが、彼は多くのことを教えてくれたし、多くの道を示してくれた。
　その上で思うのは、避けては通れない敵のことだ。

　ブランチマン————。
　元・王宮騎士団副長にして、庭園の庭師を名乗る男。
　庭師と名乗るからにはもう、彼は騎士ではないのだろう。
　しかし騎士としての在り方と、無縁であるとも思えない。
　かつて騎士であったが故に、彼は今もそう名乗っているのだろうから。

　ならば彼は、どうなのだろう？
　フーキと同じく、主君が間違えていても守り、正そうとする騎士なのか。
　それとも何も知らず、あるいは考えず、ただ従っているだけなのか。
　いや、もしかしたら噂通り——ガチホモなのだろうか。
　王にそっちの意味で惚れ込んでいて、夜の騎士になっているのだろうか。
　分からない。
　アムルイは彼のことも、新王のことも未だよく知らないのだ。
　どういう人物か想像はできても、決め付けることはできない。

　だから知りに行こう。
　彼がどういう騎士で、どういう人物なのか。
　王がどういう主君で、どういう人物なのか。
　きっとまだ遠いけれど、手を伸ばし続ければ届く距離にそれはある。
　そしてできれば、ブランチマン×パラダイスでないことを祈る。
　いやそういう関係は否定しないけど、モチベーションの問題で。

　そして届けに行こう。
　民が何を思い、何に怒り、何を嘆くのか、新王に。
　ブランチマンのような敵が立ち塞がっても————

「……あれ？」

　と、そんな風に考えていたアムルイは、そこでふと気付いた。
　自分達の言葉を新王まで届けに行く。
　その手段として、そこまで戦うことは間違っていないだろう。
　しかし言葉を届けると言っても、どんな形で伝えればいいのだろう？

「まいったなぁ……」

　自分で言うのも何だが、アムルイは頭が良いわけではない。
　ましてや山野に学ぶ民である。
　言いたいことは山ほどあっても、それを上手く言葉にできるかどうか。
　捕らぬ狸の皮算用ではあるが、どうしたものかと頭を悩ませてしまう。

「どうしましたか〜？」

　そんなアムルイに声をかけてきたのがアイサだ。
　占星術師だけあって、彼女の知恵は頼りになる。
　アムルイは現状の悩みを打ち明け、どんな方法があるかを尋ねてみた。
　するとアイサはしばらく考え、こう答えた。

「歌なんてどうですか〜？
　文字の書けない人でも、歌なら覚えれますし。
　言葉では伝えられないものも、歌なら表現できるかもしれません〜」

　なるほど、と思った。
　確かに部族でも、いくつかの物語を歌にして伝えている。
　上手くいくかどうかは分からないが、試してみる価値はあるだろう。

　アムルイは礼を言って、早速、歌を作ってみることにした。
　まずは練習だ。とりあえず歌を作ることに慣れてみよう。
　ならば題材は、目前に迫った敵であるブランチマンがちょうどいい。
　騎士とは何かを問い、ブランチマンに何者かを問う歌がいい。

　慣れないことで苦労したが、数時間もあればとりあえずの形にはなった。
　出来映えを確かめてもらおうと、アムルイは仲間を集めて歌う。
　それは決して上手いものではなかったが、気持ちのこもった歌声だった。
　しかし。
　ものすごく渋い顔をして、リアスが言った。


「——歌詞にガチホモって入れんな」


　こうして風評被害は未然に防がれた。
　とりあえず真実が分かるまでは、という期限付きで。
　

アイサは着痩せするタイプです

　あなたの言葉を聞いて、話しかけられた彼は頷く。

　彼は手甲を顎に当てた。その数瞬後「そう言えば」と呟く。

今日もまた料理を売ることが決まっているため、グレンダは下ごしらえの準備をしている。
今度はきのこで料理を、という注文であった。
どう料理しようか、と手持ちの資源を見てみたところ、
香草や町で調達した調味料と簡単な食材は見つけることができた。
しかし何かが足りない。何だったっけ……？

すっかり忘れていたが、あれはそういえばチハヤが興味津々で持っていったのだった。
あれを彼女は料理するのだろうか。どう使うのだろうか、今度聞いてみよう。


そんなことを考えながら町に食材を仕入れに来たグレンダは、先日のアムルイとの会話を思い出していた。
エンブリオですら食べてしまう上にそれを何とも思っていない、そんな相手ではあるが、
嘘や誤魔化しは効かないが、また会いたいと思わせる魅力があった。

見ると本当にアムルイの姿が見える。彼女も調達に来たのだろうか。
こちらは進攻のために多めに買い物の予定だが、アムルイの方も何かの準備に余念がない。

そんな風に声をかけ話を聞くと、以前見たあの平原の強者、ブランチマンに挑むというではないか。
見知った者が彼と戦うと聞いてわくわくしてしまう。
性格は珍しいほど平和的なグレンダであるが、こと武道、剣での試合に関しては好きな気持を抑えきれないようだ。

以前平原で見たブランチマンの様子を思い出しながら注意する。
そういえば——……

そんな話をしながら、お互いに買い物を済ませたのだった。

いきなりかけられた声に振り向くと、そこにはアムルイより一回り大きな少女。
面識はないはずの相手だが、彼女はアムルイのことを知っているらしい。

グレンダ。
つい先日牢屋で顔を合わせた、騎士のような子。

そう言うと彼女は背中の荷袋から草の包みを取り出し、中身を取り出して手渡してくる。

面識のない相手から物を渡されるのは少々気持ちの悪いものだが、あの少女の知人であればきっと悪い相手ではないのだろう。
そう思いながら手渡されたものを確認する。

▼塩漬けの行動！
フリーズスター！！
　アムルイに 187 のダメージ！
　　アムルイに凍結を1追加！

アムルイが凍結（1）している間に、彼女は去っていった。

元・王宮騎士団副長——その肩書に偽りはないらしい。
ブランチマンの屈強な肉体には、そう思わせるだけの説得力があった。
しかし。

ガチホモ。それは大自然の摂理に背いた、あまりにも不毛な愛の形。
そういう愛の形があってもいいとは思うけど。
一方、ブランチマンは額に青筋を浮かべて問う。

真相は分からない。
だが確かなことが、一つある。

あくまで否定するが、どうだろう。
元・王宮騎士団副長でありながら、庭師をしているのも関係していそうだ。
不祥事による左遷とか。