[SummerVacation]後編


「タロット占いの夜店、開店の事」

昼間のテント設置の疲れと、朝から何も食べてない空腹で。
いつの間にか、テントの中で、寝てしまってた。ぐったり。
顔の上には、自分占いしたカードが一枚。
「棒の2」。
地球儀を手に持ち、城壁に立つ男。征服者のカード。
これが私の、まだ見ぬ未来の恋人の姿なのだろうか？
おかげで、強引な男に言い寄られる夢を見てしまった、よ。


・・・と、その時。
私に呼びかける声と、香ばしい焼きそばのにおいで目が覚めた。
目を開けると、予約をいれてくれてた女の子と天使（？）が、私の顔を覗きこんでいる。
あぁ、そうだ。もう夜なんだ。店を。店を、開けなきゃ・・・。
のっそりと体を起こすが、空腹で思わずふらりとよろける。
ついでにお腹から大きな音が聞こえたような気もするけど、それは聞かなかった事にする。
「あの・・・とりあえず、食べてからでいいですよ？」
女の子の言葉に甘えて、差し入れの焼きそばをかきこんだ。
まるで親の敵のように、すごい勢いでむさぼる。
あぁ、美味しい。生きてて良かった。屋台の焼きそばって、なんでこんなに美味しいんだろ。
この焼きそばを好きなだけ食べさせてくれるなら、多少強引な男でも、いいかな。

「・・・えーっと。エスヴィアさんと・・・ミカーラさん、でしたっけ？」
ペットボトルのお茶をゴクゴクと飲み、人心地ついた私は、ようやく仕事モードに入った。
その二人、女の子と天使の子は、さっきから私の顔をじーっと見ている。
視線を感じるあたりを指で触ると、ソースのついた青ノリが取れた。
・・・べ、別に、いいよね。口の周りに青ノリつけた、タロット占い師がいても。
占い師だって、個性の時代なんだから。これだって個性だよ、きっと。

黒いハイミロン製のアルタークロスを広げ、ホワイトセージの香を焚く。
念いりにシャッフルした後、一枚のカードを取り上げる。
出たカードは、「棒の騎士」。
茶色の馬に乗って旅をする、棒を持った若い騎士。
鎧の上からまとった黄色いマントには、サラマンダーの模様。
「占いたい事は・・・目的地への道のり、でしたよね？」
うなづく二人を前に、ちょっと考え込む。
「その道のりの、道中。何らかのハプニング、アクシデントがある、かな。」
カードの中の馬を、人差し指で指さす。
馬は何かに驚いたのか、前足を高くあげている。
「でも、大丈夫。冷静に対処したら、落馬はしない。かなり慌てる事になるとは、思うけど。落ち着いて、対応して。」



次のお客は、お世話になってる、タンポポ荘の大家さんだった。
ポポロさんと、ピアさん。
ほんわかしてるポポロさんと、クールなピアさん。好対照な二人だ。
私のテントから少し離れた屋台のあたりからは、ガヤガヤとした活気が伝わってくる。
今ごろはタンポポ荘の皆で出している屋台で、この二人も忙しいはず、だけど。
少し時間を作って、来てくれたらしい。
いい人だ。

ポポロさんの引いたカードは、「剣の王」だった。
青い衣に身を包み、剣を手に玉座に座る、鋭い雰囲気の男性。
今日の占い、客から特に指示がない時は、恋占いって事にしてる。
という事は・・・。
「ポポロさん。知的でクールな人が、好みのタイプだったり、する？」
今の彼氏か、未来の恋人か、そこまでは分からないけど。
この人と、縁がありそうな感じ、なんだよね。
「ただし、この人。いい人なんだけど、ちょっと融通が利かない面が、あるから。気をつけて、ね。」

続いてピアさんが引いたカードは、「棒の3」。
夕暮れの中、崖の上に立ち、遠く行きかう商船を眺める人物。
あの船たちは、たぶん彼の持ち船。
このカードを、ポポロさんと同じ流れで、占うと・・・。
経済的に力のある人と、縁があるのかも？
「でもこの人は、見守るタイプ、だね。普段は静かに、見守っていて。困った時に助けてくれる人、だと思う。」