赤いカーペットの敷き詰められた廊下が目の前に続いている。
仔供のオレにすら靴越しの足裏で感じるその踏み心地で一等良い素材だと分かる。
壁には立派な彫刻が並び、ここには一般人が生活する空間ではないと言う空気が漂っていた。
だだっ広いその廊下を歩いているオレと狼獣人——キバと狼のシロガネ、そしておまけのトゥバンは辺りに気を配りながら奥へと進んでいく。
ふと辺りと自分たちを見比べてみる。
半裸のキバ、言葉を話すとは言ってもただの狼にしか見えねーシロガネ、仔竜のトゥバン、なんとも場違いな風景だなと思う。オレも普通の平服で大差はねーケド。
まあやっていることも見た目と同じように場違いな漫才と間違えそうな素っ頓狂な会話でオレも退屈はしねーで済むからこの退屈な探索ではありがたいと思う。
つーか、オレが一番年下のはずなんだがそんな気が全然しないのはどうなんだ。
ちょっと最近自分のアイデンティティってヤツを見失いそうになる。
ガキ扱いされるのは嫌だけどさ、ガキ扱いにすらされない環境っつーのもそれはそれで辛いんだなと悟ったね、オレは。





先へと進んでいくと何かを抱えた人影が目に入る。
いつか出合った赤ん坊を抱えたモミアゲ男——サバスがそこに居た。
無視して進むこともねーだろうと声を掛けると、気づいたサバスはオレ達を見やり以前に庭園で出合ったときのようにメモ帳を見ながら講釈を垂れ始めた。
サバスが言うにはオレ達がネクターと生命力によって契約するエンブリオ以外にも、こっちの意思とは関係なくエンブリオ側から無理やり契約をしてくる『強制型』のエンブリオが存在するらしい。
『強制型』のエンブリオは普通のエンブリオとは違って解約をする方法が見つかってないという。
その契約も結びつきも普通のものよりとても強く無理に剥がそうとすれば契約者もただではすまないかもしれない、と。
その話を聞いてオレは背中に僅かに寒いものを感じる。
今まで契約してきたエンブリオは普通のもんだが、エンブリオとの契約っつーのがお気楽なもんじゃねーと言う事を突きつけられた気がした。
まあ『強制型』というのが悪いものとは限らねーケド、一旦取り付かれちまったら外す方法が分からないもんは後々面倒なことになるのは間違いねーだろう。
そしてエンブリオという言葉の意味とサバスは話し出す……そういや、どういう意味なのかメルンテーゼに来てから聞いていなかったな。
どーいう意味なんだ？と聞いていると、話が途中で中断される。サバスの視線がオレ達からオレ達の背中へと移り、はっと後ろを振り向く。
そこには城内をうろつくエンブリオの小さな群れがオレ達に近づいてきていた。
前にも見たことのある普通のエンブリオ達だ。少し肩の力が抜ける。


全く気になる話の途中だってのに面倒な事が舞い込んでくるもんだな。