たった数日、それがこれだけ待ち遠しいと思った事もそうなかったはずだ。

私達は合流予定の今日という日を迎えていた。
アーネは窓際で腕を組んで立っている。
兄さんは椅子に座り、お茶の入ったカップを手で遊ばせていた。
私は自身のベッドに腰掛け、その時を待っている。

部屋番号は伝えてあるので彼らがやってくるのを待つだけなのだが、それが逆にもどかしい。

これなら外で合流した方が良かった気もする。
久しぶりに会えるという理由もあるが、彼らの安否も気になるし、私たちに怒った奇妙な異変についても早く何らかの手がかりが欲しい、というのもある。

そういうこともあり、非常に落ち着かない。

「このみ、少し落ち着いたら？」

アーネが溜め息混じりに言う。

「そ、そんなに落ち着いてないように見える？」

「ええ」

「傍から見て丸分かりなくらいにはな」

アーネと兄さんの即答に顔が熱くなるのを感じる。
とりあえず深呼吸をしてみたらどうだ、と言う兄さんの言葉に従って目を閉じ、ゆっくりと二、三回繰り返し再び目を開ける。
確かに少し落ち着いた気がする。

「大丈夫か？」

兄さんの言葉に無言で頷く。
逸る気持ちは押さえつけなければいけない。再会は喜ばしい事だがその原因は歓迎されるべきではないのだから。

一部の人物の時間喪失。

誰の思惑で、何の意味があるのか。そもそもこれは人為的なことなのか、どれだけの人が被害にあっているかはわからないがこの案件は放って置くわけにはいかない明らかな異常。

その対策と情報交換をし、可能であればその原因を特定、事態の収束。
魔女を探さないといけないという件も残ったまま、私と兄さんの体の異変も未解決。そこに更に降りかかってくる異変。

これらは関係性があるのか、まったく別の事件なのか。

この数日、調べられるだけ調べたつもりだが思った以上に成果はでていない。
そもそもこんな事例は稀だ。似たような事件を洗おうにも圧倒的に資料が足りていない。

こんな時にあの人がいれば、と魔女の顔を思い浮かべる。

彼女はきっと猫のような瞳を細め、にっと笑うだろう。

何もかもを見通し、悠然と口を開く。

『—————」

その言葉を頭から振り払う。
今聞いた言葉は単なる推測だ。彼女の普段の態度や性格を考えて上での私の想像。

その言葉を頭の片隅に置くわけにはいけない。

まったく、傍にいてもいなくても人を惑わすんだから……。

心中で溜め息を漏らす。

部屋に備え付けられている時計を見る。
そろそろ正午。合流予定時刻だ。

コンコン。

ノックの音が室内に響き渡る。
アーネは腕を組んだまま動かない。
兄さんが椅子から立ち上がり対応しようとするが、私が手で制した。
ベッドから腰を上げ、ノックされた扉の前に行く。
一応、不審者であった場合の事を考え、私が扉を開ける事にする。
ノブを回し、ドアが開いていく。


視界の端で何かが揺れ、突如衝撃と共に何かが覆いかぶさるように突っ込んできた。

「————！？」

あまりの速さに反応できず視界が天井にスライドして体の自由が奪われた。
足は地面から離れ、後ろに倒れて行く。
背中に冷たいものが走る。このまま倒れると頭を打ちかねない。
咄嗟に腕を動かそうとするが、拘束されたように動かせない。

やがて来るであろう痛みに耐えるように思わず目を閉じるが、予想していた痛みはこなかった。

温かく柔らかいものが私を掴んで離さない。
ゆっくり開けた目の端に青い髪が揺れた。

「……なにやってんだ、お前は」

聞き慣れた呆れ声は姿は見えないが彼のものだろう。

「このーに挨拶」

私のすぐ傍で上がる声も知っている彼女の声。というか苦しい。

「なんつー速さで抱きついてるデスか」

こちらも呆れ声だが心なしかほっとしているようにも感じる。

「みんな、久しぶり。お疲れさん」

兄さんが彼らに向かって労いの言葉を掛けている。

別働隊のアセナ、オハン。セナとの合流は叶った。

とりあえず、

「アセナ」

「……なに？」

「離してくれると嬉しいかなーって」

「まだダメ」

まだとはどういうことだろう。

「エネルギー充電中」

「何馬鹿なこと言ってるデスか、離れろデス！」

セナにひっぱられ、ベリベリと音が鳴りそうな勢いで引き剥がされるアセナ。

こっちに手を伸ばしバタバタさせる少し悲しそうなアセナ。
本気で呆れ、アセナの襟元を掴んで離さないセナ。
頭を抱えため息をついているオハンに私は少し苦笑しながらこう言った。

「みんな、無事でよかった」

こうして私達は無事に再会したのだ。