- intermission -

平原での戦闘を終え、各々の体で身支度を整える。
ここから王城への道筋の中で平原を経由する予定はなく、物資も情報も、ここでもらしてしまえば後から手に入れる事は難しい。
そのため、周囲の探索もいつもよりも念入りだ。
広場を抜け、生垣の小道を通って隣の区画に抜ける。
ここも先の区画と同じようなつくりで、目新しいものを見つけることはできない。
もう少し先まで調べるべきか、それとも一度戻ってみるべきか。
そんな事を悩んでいると、隣で探索を手伝っていたジーナの動きがふっと止まり、いぶかしげな表情で来た道を振り返る。
「ジーナ、どう—」
どうしたの、という問いかけの言葉は最後まで紡がれることはなく。
振り返ったその先には、何かの気配がしていた。

とっさに剣に手をかけるが、気配の主の姿はみえない。
見つめる方向に何かがいる事は確かなのに、姿があるのかないのか、近くにいるのか遠くにいるのかさえわからない。
どこか掴み所がないそれは、こちらに害を加える風もなければ移動する気配もなかった。
得体の知れない、それでいてどこか知っているようなその気配の主を捉えようと、必至に目を凝らす。
けれどその何かの姿を捉えることはできず、ただ時だけが過ぎる。
沈黙を破るように周囲に生えた草を鳴らし、小さく風が通る。
風の中に何かを聞いた気がした。
「リベラ」
小さく、しかし確信のこもった声音でその名を呼んだ瞬間、気配が収縮し、はじけた。
その直後、腹部に鈍い衝撃を受ける。
見下ろすと、白い髪の少年が抱き着くようにして顔をうずめていた。
「リベラ？」
今度は問いかけるように言葉をかけ、少年の頭にそっと触れる。
「ありがとう、また、呼んでくれて。」
振り絞るように発せられた少年の声。
くぐもって聞こえるのはおそらく、顔をうずめているからだけではない。
「ありがとう、は俺の方だよ。　また俺を選んでくれてありがとう、リベラ。」
困ったような照れたような小さな笑みを浮かべ、少年に言葉をかける。
少年からの返事はなかったが、しがみついた手がよりいっそう強く握りしめられる。

傍らでは、ジーナが不機嫌そうに2人を見下ろしていた。