ハルは1人、大樹の木陰で佇んでいる。
あれから丸一日が経過したものの、シオンが目覚める気配はない。
戦闘で相応の刺激を与えて起こそうと思ったんだけど、当てが外れた。
…相手が予想以上に弱すぎる。

元々、この2人は逆の立場だった。
『シオン』が主人格で、『ハル』は黒子。
戦闘能力はシオンの方が圧倒的に上。ただし、精神は歳相応に未熟。
逆にハルの精神はその年齢には相応しくないほどに大人びているが、戦闘能力は異能者の中でも並程度しかない。
シオンの精神が窮地に立たされた時、ハルは目覚める。
ハルシオンの中のハルという人格は、言わば緊急時に起動するプロテクトと同義なのだ。

アンジニティ。それは否定と閉鎖の世界。
過去に大罪等を犯した人物が堕とされて放り込まれる、世界の掃き溜め。
同時にハルシオンとトガノが出会った場所でもある。

そもそも、アンジニティの隔壁を自分達だけで破れるのであれば…トガノと協力関係を結ぶ必要など最初からなかった。
この決断を下したのはハル。
シオンの力が不安定になっているのを見て、当時は主人格に成り代わって決定を下していた。
…その時の影響がここまで尾を引くことなど考えもしなかったに違いない。

シオンからハルに交代する時はシオンの許可は必要ない。
しかし、ハルからシオンに戻る時にはハルがそれを許可する必要がある。
…シオンはアンジニティの隔壁を破壊する際に、このルールを無視して表に飛び出してきたのだ。
結果、今も昏睡状態である。

数日前、ハルはシオンの精神とのコンタクトを試みた。
結果は暴れられて終わりという散々なものだったが…これはつまり、シオンの体力は回復していることを意味する。

1つはトガノの存在。
気弱なシオンにとって、彼のような好き勝手に暴れるチンピラのような存在は言わば天敵に近い。
このような無法者からシオンの身を守るのがハルの仕事の1つ。
故に、無法者の集う地アンジニティでは殆どの活動をハルが行っていた。

禁忌。
これを口に出すということは、即ち全ての破滅を意味する。
そうなった場合、恐らくシオンもハルもトガノも終わりだ。
しかし…ハルには全てを無に帰させる可能性のあるこの札を切る勇気はとてもないだろう。
彼は迫られたものの中から安全を選択する性格。
そのように『創られている』のだから。

ドカッ！！
唐突に、ハルの顔付近にナイフが突き立てられた。
…こんなことをやる相手は1人しかいない。
ハルはその姿を目に捉えることなく淡々と言ってのけた。

つまらなさそうにそう呟くと、トガノはあっさりとその場を立ち去ってしまった。
何をやらかすか分からない……それが彼の本質。
最早、付人という名の仮面は剥がれつつあるようだ。

★執事の手記★
つまんねぇ。
殆ど禁欲生活に近いこの状態じゃ、中途半端なことしかできやしねぇ。
このままじゃいつハルシオンを刺し殺してもおかしくない状態だ。
何でもいい。何か面白ぇモンをメチャ
ク
チャ
に

……この先は文字が崩壊していて読めない。

まだ多少の不安はあるものの、知人に習った言葉が、少年の口から出れば確信が持てる。
食べ物を食べる際に問われる内容など、だいたい決まっている。
にこ、と笑顔を浮かべれば首を縦に。
——PS、つまり金が貴重である為に腹いっぱいという訳にはいかない現状の為、もらえるものはありがたく、という建前。
単に食べるのが好きなだけ、というのはその笑顔から誰にでも察する事が出来るレベルであり。

差し出された内容。
食品が並ぶ店。……興味がない訳がない。

その上、トガノという年上の彼から差し出された手に、戸惑うような、緊張するような、……照れるような。そんな面持ちで、手と、トガノの顔と、…そして、ハルの方を交互に見やり。

何だかひどく途端に挙動不審で。
挙動不審の割には、ちゃっかり伸ばされた手に自分の手を添えるのだった。

挨拶を受けぬいぐるみを抱っこして若干顔を隠しつつ頭を下げた。

一瞬、その少女が言った『こわい』という言葉にひどいノイズが走ったようなそんな気がしたかもしれない。

相手がお辞儀？をしたのでユーノも反射的にお辞儀をするのであった。

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--------------以下、海岸にて

座り込んでるハル君をみて

水着を褒められたヘリヤはうれしそうな顔をして

狙った獲物が掛ったのねという笑みを浮かべつつ

ぺこりと一礼をしながら自己紹介を返した。

にこにこと答えながら自分の事を話すつもりもない様だ。

再び炎を抑えました。
意識していれば炎の調整や温度は自由自在な様子だ。

エシャロットはなかなかイビツな形をした大鎌をもっている、クワもついていて耕せるようになっている奇怪な構造だ。

ハルに目一杯笑顔を振りまきながら歩いていくのであった。