天蓋庭園でネクターに囲まれていた頃と比べると、ハルシオンや球体達は調子を取り戻しつつあるようだ。
神々しく輝くそれらは、草一本生えていない荒野をまるで神聖な地であるかのようにも映す。

トガノが歩きながら問う。
ハルシオンもまた、その歩みを止めようとはしない。
むしろ、今までよりもそのペースは軽快にさえなっているようだ。

問いながら手早く地面にシートを敷き、ハルシオンが座ったのを確認してから自らも腰を下ろした。
ハルシオンの身体や、球体達…トガノの目線はあちらこちらへと動く。

ハルシオンが無色透明の掌大の球体を指先で突いてトガノの方へと押し出す。
先日同様、直接触れなければ細かに操れない証拠だ。

右手で左腕を握りつつ笑う。
ハルシオンが小さく頷いた。

　呆けたような態度の主殿に、悪戯心よりも若干不機嫌さが増してきた。
　もっと喜んでくれると思っていたのに、まるで自分が本物ではないかのような扱いだ。
　前に憑依で会いに来たことをすっかり忘れ、むー、とむくれながら詰め寄る。

　抱きしめる腕に力をこめながらも、ふれくされる気持ちから肌をつねる。
　本物と気づいて貰えたら貰えたで、返された抱擁の力に動揺しながら赤くなるのだが。

　尻尾を梳いて撫でられる心地よさに目を細め。
　やはり主殿の手櫛は最高だとばかりに、スーツ越しの胸板へ頬を擦りつけた。

　見上げ、尋ねる。
　彼らの結末を見届けるだけで満足ならば、これ以上無茶を重ねる必要はないのだと告げて。

　自分より強い者でも平気で悪戯を仕掛けるのが、ツヅミという狐の悪い癖。
　挑発的な会話で相手の深層を引き出すのが好きなのだった。今は主の手前、自重しているようだが。

　顔色がすぐれない主殿の頬に手を当てて、微笑みかけ。
　もう一度、自分が出来ることを確認してみるのは良かろうな、と言葉を付け加える。

　魂の話におよべば、ばつが悪そうに髪を掻きあげて、

　深刻そうな表情はせず、あえて力を抜いた柔らかな素顔で応じる。
　彼が求めるものは一緒に頭を悩ませる仲間ではなく、別の切り口を持つ思考の刃だと思うから。
　同じ位置から見ていては、意味がない。

　ツヅミは片足を跪くような姿で、主の左掌を両手の中に包み込む。
　視線は腕へ。万が一、熱が膨張して皮膚を焦がしにかかろうと、離さず受け入れるだろう。

　だが狐は、『彼女達』が自分を試すことはあれど、嫌うことはないのではないかと思っている。
　一人ならば嫉妬もあるだろう。しかし二人にもなれば、嫉妬を超えた感情が生まれよう。
　同じ相手を好きになった。彼の為ならば何だってしてみせるという心に、同情してしまうのではないか。

　狐もまた、彼女達を嫌いになることはないだろう。さりとて、現状に優越感を覚えることもない。
　よくぞ守ってくれていると、感謝の念を贈りこそすれ。

　ちっとも仕方なさそうに、形の良い綺麗な唇へ再び吸い付いて。
　尻尾をふりながら、無理をしてでも会いにきて良かったと思うのだった。