とりあえず安全だっていえるところは、広くて見わたしが効くところ。
　それでもってボクたちが、１度でも叩き伏せた連中ばかりがいるところ。

　マ　ヨ　ヒ　ガ
　迷い家の森の森を抜け、さらに城壁周辺の森を抜けて。
　城門をくぐって城まで続く道、それを見おぼえあるところまでカシャカシャ進む。
　ほどなく止まる。

　誰ともなにとも打ち合わせとか待ち合わせはしてなかったけれど、考えたことは同じだったみたいで。
　城門内の広庭で、ちりぢりになったみんなと再会した。


「わー、千巌たち、服とかぼろぼろだな、森はやっぱり危険だなー。千巌がいたところよりも凶暴だったぞ、あのインコとか」
　無事だよかったといいながらぴょんこぴょんこ、かかしな千巌は飛び跳ねる。
　傍では黒い服を払いながら、サヤが静かに佇んでいる。
　マシェはその場にはいるけれど、なぜかみんなの方を見ずに顔を赤らめている。
「そういえば、ここに来るまでの間、『地下の牢屋』が砂の方に見つかったとか聞いたが、ネクター置いてたりしないのか？
　地下って千巌のところだと、野菜とかいろいろ置いてたぞ？」

　砂？　に、ロウヤ？
　砂はだいたいわかるけれど、ロウヤっていったいなんだろうか？


　なんでもそれらは、この城壁内のちょっと先にあるそうで。
　とりあえず行ってみよう！　という千巌の先導で、“砂”と呼ばれる方へといった。


　道をそれ、てくてく歩く。

　そよそよと、広庭を吹き抜ける風。
　甘く気持ちのいい、やさしい風がそよいでいる。
　虫も鳥もざわめいている、ゆたかな風と空気が遊ぶ。


　またたきのうち、いきなり風が変わる。
　カラカラの、いのちなき乾いた風が吹き付けてくる。


　見えない境界をまたいだそこには、不自然なまでの枯れた世界が広がっていた。


　後ろを振り向けば、その先にはたしかに緑が広がっている。
　でも、前を見ればそこに広がっているのはひび割れた土、土、岩。
　風すら前と後ろでは全く違う。
　地面もふれれば水気なんてなく、どころかカラカラに干からびていてふれた端から砂となっていく。
　きれいな草花も、さえずる動物たちの声も、砂色のココにはそんなものどこにもない。

「うー、千巌は寒いところは大丈夫だけど暑いのは苦手なのだー。氷水ー、飲みたいー」
「ゎ、わ。ちーっちゃん大丈夫？　氷水……は、にゃいね。お水にゃらあるけれど……」

　ひび割れた地を２・３歩も歩けばぶーぶーぶー。
　言い出しっぺの千巌も文句を言い始め赤ら顔のマシェがそれをなだめている。
　ユノだって何だか文句たらたらだし、サヤだってボクだって微妙な顔だ。

　さっきまでいた広庭と全然違う、なんていうか——ここは、死んだ土地。


　でも、なんで？
　これって、おかしくないか？！


　だってここも、さっきまでいた広庭と同じ城壁の中なんだ。
　むしろ隣り合う位の間柄に近い場所なんだ。


　なのになんで？
　かたいっぽうはすごくいろとりどりでいのちにあふれてるのに、なんでかたいっぽうはこんなに——


　——ギュルリ。
　イヤな音がすれば、砂が舞い上がり風が吹く。
　風がふれるだけでブリキのからだがミシミシときしむ。

　イタイ。

　前なんて全く見えない。
　顔を腕で覆い立ち止まる。


　ナンデ、ナンデ、ココハ、コンナコトニ……？


　——メシャリ。
　痛い風をやり過ごしていると、何か乾いた変なものが腕に巻きついた。


「変な風だなー、痛くて仕方ないぞ！　それにここが広庭と同じ城壁内だなんてびっくりだよなっ！
　……あれ、ソウ。それなんだ？　さっきまでなかった、よな？　風で飛んできたのか？」

　砂だらけひびだらけのここと同じような、砂色でひび割れたナニカ。
　巻きついたそれを壊さない程度にゆっくりひっぺがしながら、千巌の言葉にゆっくりと首を縦に振る。

「なんか、ぼろっぼろの紙……だな。あれ？　なんか絵が描いてあるのか？　千巌にも見せてくれないか？」

　こくり。
　剥がし終わった紙をちょっと見てから、だまって千巌に見せる。

　ショージキボクには何だかわからない、そんなひび割れたぺらぺらのナニカ。
　砂の色をしたそれにはキレイなヒトが鳥の尾羽を持った絵がかいてある。
　その絵には縁取りがされていて、さらに周りにはきれいな黒がうねうねかくかくしながら飾ってあった。

「なんかかいてあるな？　え、っと……【わ、ん、て、でー】……で、いいの、か？」
「わんてでー——？」
「文字が書いてあるのだけは判る！　だけどなんてかいてあるのか千巌にもわからない！
　ただ、誰かの絵みたいだな！！　なんだろうな、これ」


　文字、と、絵、かあ……。
　文字、ボクは読めないんだよ、なあ……。

　本当に、なんなんだろうな。

　不自然なまでにいのちを奪われ喪った、枯れた土地で飛んできたひび割れた砂色のぺらぺらのソレ。
　ロウヤがあるという死の土地で飛んできたそれが何を意味し、描かれてた絵と文字が何をさしているものか。
　この時のボクは単純に、ユノや千巌といっしょになんだろうと首をかしげるだけだった。

うんしょ、こらしょ、と槍を支えにしながらぴょんこぴょんこ。
砂地ではカカシの足も槍も砂に埋まって動きづらそうだ。

シャリン——、シャリン——
　どこからともなく音がする。

　　　シャリン——、シャリン——
　　　　それは、だんだん近づいてきている、そんな気がする。

シャリン——、シャリン——
　どこからともなく音がする。

　　　シャリン——、シャリン——
　　　　それは、だんだん近づいてきている、そんな気がする。

そう言うと目を閉じ、早口に異国の歌のような言葉を唱え始め。

ふわ、と風が彼女の周りにまとわりついた。
大鍋が彼女の前に歩み出た。