ウルヘアと契約したのは、15歳の誕生日の時のこと。
　去年の、この時期。澄み渡る空の下、静かな夜に。

「『飛ぶ禽は高く、頭に頂くは金。囀りは高く、裂く風は銀。』」

　本来、村と森の人間は、18歳の時にエンブリオと契約を結ぶのがしきたりだ。そうして、一人前として認められる。
　私がウルヘアと契約を結んだのは、随分早かった。特例中の、特例。
　森に危険を及ぼさないために——今回の一揆に、参加する。そのために、私は契約をした。
　だから全然、一人前なんかじゃなくて、私は駄目なところばかり。
　まだ森の詩だって全て覚えられていないし、村人を森へ導くことも一人じゃできないし、それに、それに。上げていったら、切りが無い。

「『その様は勇猛にして、全てを喰らい屠る。皆、あなたの両翼の下だ。』」

　年に一度、契約を結んだ日の前後に、契約の確認のための儀式を行うのが決まりだった。
　大丈夫、やり方は分かっている。
　月と星の綺麗な夜。
　身体を清め、それからニオイスミレの香りを纏う。
　森の主様の祠の前で、祝福された杖を手に、契約したエンブリオのための詩を歌って、彼の声を聞く。
　祠の前と言うのは兎も角、森の中でする方が良いのだろうけど、今回は仕方がない。ウルヘアも、気にしないだろうし。
　未熟で、力不足で、彼や他のエンブリオの力を引き出せていない。それが今の私だ。
　それでもウルヘアと契約して、他のエンブリオと契約をして、一揆に参加して、ここまで来たこともまた確かだ。

「『あなたの風は私に力を与え、私の生命はあなたに力を与える。私とあなたは、共に在る。』」

　私はミハウに、もう少し自分のことを認めてあげても良いんじゃないかと言った。自信が無さそうで、自分を責めるような彼に、私を重ねていた。
　元はと言えば、八つ当たりだ。それで色々あったけれど、気付けて良かったと、言ってもらえて良かったと、そう彼は言ってくれた。
　ミハウは、少しずつ、前を向こうとしているのだと思う。
　だから私も——少しくらいは自分のことを認めてあげても良いのかな、と思った。
　正面のウルヘアを見る。
　彼の鋭い眼は、黄金色に光っていた。

「『　　　　　　』の名において。『　　　　』の名において。ここにまた、永い約束を」

　ウルヘアは高く鳴いた。
　その声は、心地良かった。

この前のように離れて歩いている、というわけでもないが。
それでもやはりルカとはあまり顔を合わせようとはしていない。
まだ、気まずいようだ。

　それでも、二人の距離感がいつもと違う気はする。気まずそうにも、見えて。

　努めて自然に、そう彼女に話しかける。

ふ、と少しだけ笑みを浮かべて

言葉を受けて、頬をわずかに紅潮させ、片手で顔を隠しながら

そういって人差し指を唇に当て

ネクターがなくなることによる影響について、何度か聞いたことがあったためか、深刻そうな表情で受け取りました

みんなが好き勝手むしり取って行くから。

多くの人類を殺め——それを、微塵も後悔しないが故に。
立場がどうであろうと悪なのだと、魔王は言った。
静かに。何かを諦めるように。

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※雰囲気が違いすぎるので謎のライン分け

ズバッと言われれば、さすがにフィーグルも怯んだ。

人類的にも割とあり得ないが。

暖かい響きを持たせて、あえてなのか、彼女はコトカとエンブリオの関係を、そう称した。

力強く、優しく、彼女はコトカへそう告げた。

嫌な予感とは、当たると言うが。
やれやれ、とばかり、小さく溜息を吐いて。
ブレスレットについては、

短く言って返す声は淡々としたものだったが、やや、間が空いた。

ウルヘアと彼女の繋がりについて聞きながら、ふと。
彼女は恐らく自分より年下で、だからつまり、

と、訊ねこそすれ、言い難かったら答えなくていい、と添える。
自分達の居た、元の世界について訊かれたなら、

しかし、俺が涙を流すことはない。
強く育ったものだと我ながら感心する思いだ。

彼女の問いに、言い難そうに首を竦めて頬を押さえる。
決まり悪げにくすくすと笑いながら白状するには。

彼女が少し考え込んでいる間、こちらはというと。

なんて熱く語っていたのだが。
途中で我に返って恥ずかしそうに、んん、と喉を鳴らした。
小さく身を乗り出して、彼女の言葉に耳を傾けながら、実際にその姿勢を取る。
ちょうど水鳥が浮く時のように、膝を曲げて座る姿勢。…分かっていない。

身体の横でぴたぴたと、地面を叩きながら首を傾げた。
人の泳ぐ姿勢を、どうも見たことがない様子。
そんな、低い姿勢から見上げたままで小さく頷き。

　イヌワシは羽ばたき、杖に括りつけられた常盤色の結晶が、きらりと輝いた。