苦虫を噛み潰したような顔をし、何かをつぶやいた金髪の男に向けてエンブリオは再び口を開く。

その様子を見て、やっぱり、と思いつつ。

そーですね、と言いながら、微笑を浮かべ。

気になってはみないか、と問いかけ、答えを聞かずに続ける。
答えが返ってくるとは思っていないようだ。

　如何に世界を自在に渡れるとはいえ、特定の世界に留まってはならないという事は無いだろうと思う。先ほどの災害から逃れるため移動するのも理解できるが。

　世界そのものが異物を拒む。これはもしかしたら世界を渡来するすべての存在にとって無視できぬ事かもしれない。それは記憶するべきと思った。

　奇天烈な技術が跋扈し、しかも竜も存在しない世界。竜殿の言葉を疑うつもりは無いが、やはりどうしても信じられず、今ひとつ響かない感覚はどうもぬぐえそうに無い。

　古い時代、というのが妙に引っかかる。
　そしてリザードマンは居ない。これは半ば予想していたが、軽くため息をつく

　それだけでも驚異的、と思うが、続く言葉はさらに衝撃だった。

　ぶつぶつ、ぶつぶつと未知の乗り物に思いを馳せる。
　ただ一つわかったことは、追いかけられたら逃げられないということだ　

悲鳴に気付くと、尻を叩く手を止める。
顔に眼を向ければ、目尻に涙が浮かんでいた。

この様に大の男を、力づくで泣かせた経験はあまり無かった。
どうしたモノかと思案する間も無く、自然に身体が動き。

今度は慎重に、優しい手付きを以って。
先ほど叩いた尻尾の付け根を、よしよしと撫で始めた。

そういう背には翅が広がったままだし、スカートの下からは尻尾が覗いていた。