ダイゴとフロラという新王側からの刺客を打ち負かした俺とミクネは、ステフやアルコルと合流すると一路、星屑の山へと向かうことになった。理由はいうまでもない、この場から転移して消えたアルデバランの後を追うためだ。わざわざ居場所を教えるように場所を秘匿する形での転移を行わなかったアイツの様子からして、ここで俺との決着をつけるつもりで居るのだろう。

　アイツは俺を殺すつもりだ。王城内という自由の利かない場所ではなく、邪魔も入りにくいあの場所ならばアイツも本気が出せる。次元竜としての能力も遠慮無く使ってくることだろう。それをこれから何とか打ち倒し、追い返すなり何なりしなくてはいけない。
　それは正直を言えばとても難易度の高い問題だ。アイツのあの剣幕からして、たとえ勝負に勝ったからといって大人しく引き返すとは到底思えない。下手をすれば、また何度でも襲ってくる可能性はゼロではない。
　最悪の場合は、

　誰にもいえない後ろ黒い思考を胸に。
　俺はアルデバランからの襲撃を警戒し仲間達をつれて星屑の山にほど近い森の中に転移したのだった。





















　久々に訪れた星屑の山は、相変わらずチラチラと流星が降りしきる場所立った。一瞬の強いかが焼きを残して大気の中で燃え尽きていくその姿は美しくもあるが、今はそれに目をとられている余裕はない。この山のどこかにヴィントが、アルデバランがいる筈なのだ。

　口々にそういってくれる仲間に、俺は申し訳ないと思いつつも口を開く。

　次元竜同士の争いは、普通の生き物同士の戦いとは訳が違う。下手をすれば一撃で必殺となりかねない攻撃が飛び交うのだ。自分にまだ余裕があれば仲間を庇いつつだって戦えるだろう。でも、そんなものは無い。アルデバランが本気で向かってくるのがわかっている以上、何の安全策もなしに地雷原に放り込むような真似を俺は仲間に強いることはできないのだ。第一、そんなことになれば俺自身も集中してアルデバランと対峙は出来ないだろう。

　それ以上を二人は何も聞いては来なかった。反論することなく、アルコルとステファニーは互いの顔を見合って何かを判断した様に見えた。未だに不満げに俺をみているミクネへとそれぞれに言う。

　それでイイんっすか！？……と唸るミクネを、それまで静かに見ていたフレアサンダーが窘めた。

　俺は小さく笑いかけた。
　大丈夫だ、とそう言う代わりに。

　ミクネは何か言いたげに口を開いたが、結局言葉が発される事は無かった。ただ大きなため息を一つ付いて、渋々という顔でミクネは頷く。その頭を俺は軽く叩くように撫でた後、後のことを仲間達に任せて俺は本来の竜の姿へと舞い戻ればその場から飛び立った。
　向かうべき場所はわかっている。この地に転移してきた時から感じていた気配。同族の……次元竜の気配は山頂付近にあった。その気配は動かない。俺を待っているのだ。余計な邪魔を打ち捨てて、俺が自分のところにまで辿り着くのを。
　その地殻にヴィントの気配はない。何らかの方法で次元竜の気配を完全に断つように細工してどこかに隠しているのは明白だった。つまりは、自分を倒して聞き出せ……と言いたいのだろう。ヴィントを見つけ次第、その安全を確保して一旦退散する……なんて方法は使わせるつもりがないという事か。

　それがどんな結末になろうとも。
　俺は覚悟を決めて、翼をはためかせたのだった。


























　金の竜の姿が飛び去るのを確認し、真っ先に口を開いたのはステファニーだった。

　この場で待つつもりと思っていたのだろう、ミクネがきょとんとした目を向ける横で違うだろうと答える声があった。フレアサンダーである。隻眼の狼はステファニーとアルコルにそれぞれ視線を送った後で小さく鼻を鳴らした。

　不敵に笑うコカトリスのその隣で、クスクスとアルコルは笑う。
　黒いマフラー越しに見える微笑はどこか悪戯なものを含んだものだ。

　次元竜同士の戦いに、自分たちが出る幕は多分無い。
　その争いがどれほど危険なものなのかは、ここにくる前に当の次元竜からこんこんと聞かされたのである。少なくとも、生身の、普通の生き物が下手に割り込むことは死に直結しかねない、とも。そこにもしや介入するつもりなのだろうか。
　心配そうに問うミクネへ、答えたのはアルコルだった。

　空を仰ぐ黒い眼差しには、静かな知性的な光が宿っていた。

　冷静なアルコルのツッコミをスルーして、ステファニーは胸を張った。

　にこりと微笑みかけられた狼が微苦笑を漏らす。ヒトの何倍も鋭い自分の鼻ならば、たしかにあの小さな次元竜の匂いを追うことは不可能ではないだろう。草木も少ないこの山で隠れられる場所はそう多くは無い。以前に訪れた際での散策で地の利もある。
　不可能ではない反撃だ。

　それぞれに顔を見合わせて小さく頷けば、ニンゲンと半人外と狼とコカトリス……というなかなかに個性的な面々はそれぞれに動き始めた。目的はただひとつ。人質の安全の確保。これをもって、あの争い嫌いの金の竜の心労を少しでも減らしてやるために。

いろいろ判ってから動くせいもあるけど、と苦笑しながら

亜竜が 気になさらず、という視線を送っている。

クライの触覚を眺めながら、二度 なるほど と呟いた。

謙遜しているかのようだが
精霊みたいと言われて悪い気はしていないようだ

返答に、
じとその横顔を見遣る。

微妙に理解したようなしていないような顔で頷く。

無言で銀銃を両の手に。
その表情は、何時に無く厳しい。

見上げる先に輝きは集う。
……それは、黄金の光で形作られた翼持つ蛇にも見えた。

青年はポツリと呟く。