何でこうなったのだろうか、と思うと大体はミクネのせいです……という回答しか脳内に出てこない訳で。

　うん。
　本当、なんていうのか。


　どうしてこうなった……？







　事の次第は数時間前に遡る。


　その日、俺は何というか最悪の目覚めを体感していた。
　言うまでもない。先日の一件（狂い竜騒動、とかドスステファニー騒動、とかアルコルは言ってたけどもそんな笑える話じゃねぇぞオイ）のせいだ。見事に俺はミクネの作った料理に狂わされ、そして気がついたらなんか知らないが麻酔でピリピリ動けない身体にされていたのだから、本当当事者としては笑えない。
　まあミクネも悪気はあったわけじゃなく、ついつい美味しそうだったとかで突っ込んだキノコがたまたま……色々とアレでソレでコレだったから俺の身体と拒絶反応を起こしたらしい。何というのかツッコミどころは満載なのだがあまりツッコむと危険な場所に足を踏み込みそうだからスルーしておくとしよう。うん、察せ。察してくれよ。


　ともあれ、そんな訳で前日の麻酔が微妙に残って朝からぐったりしていた俺は、

というけたたましい鳴き声で目が覚めた。見れば、朝日を浴びて元気に跳ねてるドスステフの姿が……そうなんだよな。何かアイツだけ昨日のキノコの影響が抜けてねぇんだよな。夜の間は静かだったのに、朝になって目が覚めた途端にこれかよ……これはひどい、と色々思いつつもおれは遠い目をするしか無かった。だって治す手立てなんて思いつかないし。許せステフ。


　そんな時だ。
　ミクネが俺の元に来て耳打ちしたのは。

　怪訝げな俺にミクネは申し訳無さそうな顔でポツリと呟く。

　流石に昨日の今日だ。
　記憶は殆ど吹っ飛んでるがろくでも無いことしか無かったんだから、警戒だってしちまうわけで。
　問う俺に、しかしミクネは満面の笑みで頷いてみせる。

　じゃじゃーん！……とばかりにミクネが差し出してきたのは招待状だった。フリント領次期領主、と差出人のところにはある。中を見れば、どうやら暫く前にあった『Summer Vacation』で店を構えたあのスポンサーからだったらしい。今頃で遅くなったが慰労会を兼ねて鍋パーティーを催すので来て欲しい、との事だった。
　たしかにコレなら面白おかしい鍋なんて出てきそうもない。それどころか、普通の場所で食べるよりずっと高級な食材が出てくるんじゃないのか。これはミクネが太鼓判を押すのも当然だろう。

　よく見れば下の方に、『正装でお越しください。※無い場合は貸し出しいたします。（ただし数に制限がありますのでご注意ください）』とかいう注意書きが小さくある。……正装で鍋パーティー？　領主ってことはそれなりの身分の人間ってことなんだろうが。お貴族様の趣向は変わってるな、いやはや。

　まあ向こうに行けばあるというのなら用意するのも面倒だ。
　俺は、アルコルに一言用事ができたことを告げ、ドスステフの事を頼んだ上で「さあ行こう早く行こう！」と騒ぐミクネを連れて一路、その会場へと向かったのだった。





　そんな訳で会場に来て衣装を用意してもらったのはいいんだが。
　唐突にミクネが無茶を言い出して俺用に用意されてたスーツを持って行っちまうんだから……世の中ってどうしてこうもうまくいかない事が多すぎるんだろうか。しかも会場に到着したのが最後の方という事もあったからか、用意されてたスーツは「ちょうど先ほどミクネ様が持って行かれたアチラで最後になります」とか言われるし。

　こうなっちまったらミクネ用に用意されてたドレスを着るしか無いだろう……？
　流石にそのままだとチンチクリンだから、得意の分解再構築でちょっとサイズとか色々変更させてもらったけどさ……こんな所に特技が活かされるなんて泣きたい。正直な話、女装は森でのユニコーン対策だけで終わらせるつもり（もっともハロウィンでも着せられた訳だが……災難だ）だったからこれはあまりに不意打ち過ぎる。

　……とはいえ、やるとなればバレる訳にはいかない。
　なんといっても客の数もそれなりの鍋パーティだ。バレたら俺の今後が色々とヤバイ。ガチで。
　かと言って、鍋パを棄権します……なんてミクネが許すはずもないしな……。


　覚悟を決めるしか無いらしい。
　俺は深々とため息を吐いて、用意してもらった化粧道具と急遽作成した特殊魔法具を睨む。

　女は化粧で化ける、とは良く言うが男だってやろうと思えば出来なくはないんだぜ？　散々、妹連中に「化粧したい」だの「髪を結ってほしい」だのという我儘に数十年付き合ってきた中で磨かれた俺のコスメテクが、こんな時に唸らない訳がない。
　それにこの扇形の特殊魔法具も急拵えのわりには出来がいい自信作だ。口許に宛がう間だけとはいえ、完全に声を男なら女に、女なら男に切り替えられる代物だからな。コイツを上手く使えばこの鍋パーティーを何とか切り抜けられる……筈！


　現時点で用意できるだけのものはした。
　後は、身支度を整えるのみ。

　俺は一度、気合いをいれるために頬をパァン、と叩いた後、とりあえず髪を結い上げる所からはじめることにした。





【　練習試合に続く　】

こちらを捉えるクライの瞳に、気が和らいだ様子を見せた。

自身の耳の付け根を掻きながら、独りごちる。

自分ならば手の届くところに守りたいものをおいておきたい、と思う。
今回の己の場合は守りたいものがあまりに多く、そして各々が戦いの場へ出向く為に、それも叶わなかったが。

それはの、と亜竜の肩に止まる影がある。虫に似た翅を持つ、妖精のエンブリオだ。

などと、契約したエンブリオと言葉を交わした後、首輪に触れ、髪の毛に触れと少々思案した後に尋ねる。

零すような言葉なのは言い難いことだからではないか、とは思う。
だが気が付かぬ振りというのは出来そうにもない。故に、正面からクライに尋ねた。

PLも本当によく知らないが。

ゆっくりと視線を地面に移す。
左手の人差し指を立てて地面に向け、ゆるゆると回しながら話し続ける。

何時の間にか、手元には黒い毛糸玉のようなものが出来上がっている。
そしてその糸の先端は、クライの足の下にあるようだ。

相変わらずの無表情で、青年は何事も無かったかのように尋ねた。

リスクに見合った対価。それを見据え動いているならば、こちらから何もいう事はない。

ふと以前。生物のオスは種の進化の繁栄のため存在する、という説を思い出す。

　しかし、次ぐ言葉には

　さしものトカゲも仰天を隠せなかった。
　語る竜殿は、先ほど愚痴を聞いていた時と同等。もしかすればそれ以上にがっくりと肩を落とした様子だった。なんというか、聞いてはならないことを聞いてしまったのかもしれない。

　世界を渡れば、己の目的を成し得る術を手に入れることが出来るかもしれない。そんな思いを混ぜつつ言葉を紡ぐ。

　と、苦笑を浮かべるトカゲだった。

　

　

　

　

クラカリ君はとりあえず体調に異常はないようだ。
さすがドラゴンといったところか。

そんなことを喋っているとクラカリ君がなんだかじたばたし始めた。やはり体調が悪いのか？

というわけで、急いで顔まわりの包帯を取る。
あぶなかった。
少しでも遅くなったら手遅れになるところだった。

ますます興味津々な様子である。

あなたの問いに、目の前の子供——少年は、あっさりと答えた。
そして少年は何故それを問うのだろう、と自分なりに考えた結果、
どうして女の子の服を着ているのかと思っているのだろう、と結論付けた。

そこまで言い終えて、少年は一つ息を吐いた。

少年は、あなたの目をじいっと見つめる。

青年は深くため息をついた。

ミクネに引っ張ってこられた青年は鍋パーティという内容に不満気……というか不安げな表情である。

まあ当然とも言えば当然だろう。
つい最近、（仲間の作った手製鍋とはいえ）鍋料理には酷い目にあったばかりである。
あの時ぶっ刺された（銃弾が見事に入った）場所は今は癒えているとはいえ、
なんだか気のせいか地味に痛い気がしてならない。


青年は苦い顔でミクネを見た。
彼女の熱い（食欲という）想いに負けてこうして付いてきた訳だが。

今は鍋料理とかよりも重要な事があるのだ。

ポツリと呟きつつ、ドレス姿の青年は顔を覆った。

その身に纏うのは、ドレープが多めの白も鮮やかなドレスである。
所々にある青のリボンのアクセントも悪くはない。
女性が着ていたならば。

本来はミクネ用に用意されたドレスだったのだが、
「動きにくいからスーツがイイ！」……と青年用に用意されていた服を
横から彼女がかっさらった挙句、もう他にスーツの予備がないと言われての苦肉の策であった。

・・・・・・・

パーティに来たミクネとクライを見るなり笑顔で迎える。

二人の格好に何か違和感を感じる。