オリカと別れた後、トリーとどくにんじんが仲間を探していると背中から彼女の声が聞こえました。

それは確かにオリカへ預けていたはずのものでした。

枝はおじぎするように背を曲げます。
その反動を用いて、トリーに向かって荷物袋が飛んできます。

胸に抱え込むようにして荷物袋を受け取ると、
枝は萎びれ、みるみるうちに枯れてゆき、初めからなにもなかったように地面へと消えてしまいました。
荷物袋をよく見れば紐には手紙がくくりつけられています。

物騒な事柄がさらりと書いてありました。

トリーは難しいことばが読めません。だからどくにんじんの指す部分はトリーが見落とした箇所です。
人狩りに襲われてそれから何があったのか、どくにんじんにもなにもわかりませんがレディが姿を隠したいと言うのです。
レディの気持ちを尊重するのは紳士の務めですから、お利口さんなどくにんじんはトリーをなだめ、先へ進もうとしました。
けれどもトリーは怪訝な顔を向けます。

オリカはいませんし、クィンも姿を消したっきり現れません。
あんなに騒がしかったのにずいぶんと静かになってしまいました。



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オリカは昔から体の弱いエンブリオであった。

身の生命力の欠如から、他のドライアドに比べ多くの生命力を必要とし、
力を使えば加減なく使い果たして術の後始末もできずにその場に倒れる。
そのような生き物が生き残れるはずがない。
されどこうして成株となったのは、弱肉強食の枠組みから離れた界にある樹木であったことや、
契約により生命力の供給を受けたことが幸いしているのであろう。
運が良かったの一言に尽きる。

それが姿を見ぬうちに比較的活力に満ちる体となっていた。
術の行使を覚え、ひとりで動き回るその身は既に介助を不要としていた。
己へ笑いかけ、自身は変わったと言う。
なにが変えたかと問えばオリカは右手の薬を差し出した。
変種のエンブリオに寄生された際、逆にその毒を喰らい、毒を薬と成したのだ。
薬を己へ押し付けるはその副作用か。

不意に愚かな考えが頭をよぎった。
仮に人が毒を喰らい、克服したならばいかような生き物となるか。

オリカはドライアドだ。
彼女は人と異なる理に身を置き、その力を人は借りているに過ぎない。
されば常人にない耐性があったがゆえに毒を克服できたこと。
聞けばあの変種のエンブリオは他のエンブリオにすら侵食し、姿かたちを変えると聞く。
人の身で耐えれるわけなどないだろうに。

思索は己が柄になく、すぐに思考の片隅へ追いやられた。

[>ぽかんと口を開けながら、ふわふわと浮かぶにんじんの上半身を見つめる。

気がつけば真っ暗な空間。
ここはどこだ。

気がつくと頭上ににんじんが浮かんでいる。
その数はだんだんと増え、俺のまわりをくるくると踊り始める。

普通数えるのは羊じゃないのか？
そんなことを考えながら、数え続ける。



次第ににんじんたちは頭上でマイムマイムを踊り始めた。
こいつら人の頭上で何をやってるんだ。




キャンプファイヤーじゃないんだぞ。

まさかこいつら俺のお迎えにきたわけじゃあるまいな？

ふ、甘く見られたものだ。





俺が自身のエンブリオに遅れをとるなど、あってはならない。

俺は全身全霊を込めた気合とともに起き上がった！




目の前にはトリー少年が心配そうな顔でこちらを見ている。

　そわそわと風が吹く。
　一応、彼女のエンブリオは、ここに居るのは居るらしい。