前回の日記→まだ

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トリーは敬語で喋りません。
トリーはねちっこくありません。
トリーは自分を哀れみません。

ではあの丁寧な口調のトリーは一体何者なのでしょう。

トリーは確かにどくにんじんの仲間です。それはどくにんじんの記憶共有機能が保証してくれます。
トリーだって小さい頃はちゃんとこの機能を有していました。
トリーの側にいるどくにんじんは幼い頃のトリーに会ったことはありませんけれど“覚えて”います。
けれどもトリーという奴はちょっと見ないうちにこの機能を失っていて、それどころかひどく忘れっぽくなっていて、
なんだか別の個体のようで憎たらしいなと時たまどくにんじんは思います。

最近トリーはどことなくそっけないような気がします。
まるでどくにんじんより新しい友達と一緒にいる方が楽しいかのような………。

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トリーの出生というのはそれは不可思議なものでした。

森で火事が起こった後にひょっこり現れてそのまま居着いたのです。
若葉の髪に金の瞳、それは村人たちとなにひとつ変わることない姿で、むしろその鮮やかさは尊いとされるそれでした。

村へ来るまでの記憶がないことを除いて、見た目も言動もなにもかも普通の子供と変わりませんでしたけれど、
村の中には森からの賜り物だという人もいれば、森の災厄のひとつに違いないという人もいました。
けれどもトリーの養父であるお父さんはつんとすまして拾い子をふつうの子として育てることにしました。
トリーのお父さんは立派でえらい人で、けれど子供のいない人でしたから、拾い子を養うのにぴったりな人でもありました。
お父さんからすれば森がどうあろうともトリーはどう見ても普通の子供でしかありませんでしたし、
なにより同じ姿だから同じ部族だなどという部族と信仰を重視しすぎる、
閉鎖的で時代錯誤な考え方をした村人の家でこの子を育てるのはよくないと思ったのです。

村は森から恩恵を受けて細々とした暮らしをおくっていました。
森には村人たちの役にたつ草木や果実だけでなく、命を脅かす恐ろしい生き物がそれ以上にたくさんいたので、
成人の儀式を迎えエンブリオと契約したものしか立ち入ることは許されていません。
エンブリオを持った人だって、蟲除けの薬をたっぷりつけて、ただの獣にもしっかり備えなければ恐ろしい目にあってしまうのです。
ましてやエンブリオなしでひとりで森の中に入ってしまったら、その辿った後には生きていたときのかけらだけが残るのみです。
トリーのお父さんはそれを探し集めるお仕事もしていましたから森の危なさは身に染みて感じていました。

だからトリーが村の子供達と連れて森の中にひとりで入ったと聞いたときは、驚き飛び上がり、大慌てで森の中を探し回りました。
けれど縦横無尽に広がる森の中で手がかりもなしに子供を見つけることなんてできわけありません。
月は東に日は西に、霞が晴れて日の登る頃、トリーのお父さんは村へ帰りつきました。

そして見たのはなにひとつ変わりない姿のトリーでした。
獣も化物も毒草もなにもかもに出会うことなく化かされることなく怪我することなく村へ帰り着いたとトリーは語ります。

今までトリーを悪く思っていた人はこれは森の加護を受けているのかもしれないとひとりごちました。
けれどもトリーのお父さんだけは、そのとき初めて、トリーのことをみどりのばけものなのだと思いました。

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寝てるうちにはぐれてしまったらしい。
腹が変に痛くて、なんでも悪いものを食べて気を失ったんだとにんじんが教えてくれた。

次はどこへ行くんだっけ。
うーん。

　呆然と、目の前で行われる凄惨な光景を見ていた。何がどうしてこうなった。
　色々と理解が追いつかない中、ジュースのようなものを差し出された。

　と返すだけが精一杯らしい。

真剣に諭されているのが伝わった為か、何度もこくこくと頷きながら真面目に聞き終える。

　きちんと聞いていたのをアピールするためにも少しインテリぶりたかったようだが、四字熟語はまだ早かった。

　そっぽを向いたにんじんを見て首を傾げるが、あ。と何かに気づいたようににかっと笑う。

　懐からやや子供っぽいイラストの描かれた箱を一つ差し出す。