『行き当たりばったりな冒険　〜ツルギの場合〜』



　とある世界、GC2077.12.24.19:11、とある施設にて——


　ゆっくりとした時間が流れた。二人はゆっくりと落下する。ミライは
少女を抱きしめたまま動かなかった。瞳の光も消えている。
「……馬鹿。でも、不思議ね。私の心にはあの人がいたのに……」
　魔法の風が落下速度を和らげる。
「嫌いじゃないよ」
　床に叩き付けられる前に魔法が発動する。
「まだよ。まだ、諦めないで。今度は私が……貴方を助けるわ」
　少女の身体が白く発光して、明滅を繰り返す。
「本当は……私も……好きだった……かもね」
　虹色の光の粒子が舞い、虹色の光に包まれるように少女の姿が消えた。





　世界不明、日付不明、未知の大地にて——


　気がつくと、俺は見知らぬ大地にいた。いや、見知らぬと言うか、名前と
一般常識以外の記憶がない。服装と、背負った荷物、腰に提げた長剣からして、
物騒な冒険を続けていたのではないかと推測する。
　荒廃した大地に立ち、立ったまま寝るという、器用な眠り方をしていた。
しかも、記憶がない。どういう状況なのだ。
　無理にでも思い出そうと思考を巡らせていると、宙に半透明に透けている
少女が浮かんでいることに気付いた。半透明の少女は虹色の光で輪郭や、
影が作られており、少女の肌や、衣服等の色が判らなかった。判るのは
ドレスで着飾ったお嬢様風の少女であることくらいだ。
「……俺はミライ。ミライ＝ツルギノだ。君は？」
　少女は何も言わず、易しい微笑みを返す。少女は俺に近づいて、
俺の手を取った。何も答えないが、触れただけで、言葉がなくとも、
何かが伝わってくる気がした。不思議な少女であるが、少女に敵意はなく、
友好的なようだ。
「……俺は記憶がなくてな。何故か判らないが、急に記憶が抜け落ちた感じだ。
まずは落ち着くために適当な町でも探そうと思うんだが、君もついてくるか？」
　少女は微笑んだまま頷く。言葉は発しないが、喜んでいるようだ。
「じゃあ、適当に……こっちへ行ってみるか」
　雲が流れていく方角を指さす。少女は頷く。
「あ。君の名前を聞いておきたいんだが？」
　少女の微笑みが消え、悲しそうに俯く。
「御免。喋れないんだね？」
　少女は頷いた。
「じゃあ、俺が名前をつけようか？」
　そう言うと、少女は顔を上げ、また微笑んで頷いてくれた。

　行き当たりばったりだが、俺はこの少女と共に旅に出る。長い旅の始まりだ。