『行き当たりばったりな冒険　〜ツルギの場合〜』



　とある世界、GC2077.12.24.18:55、とある惑星にて——


　メインブレインが機能停止し、サブブレインの使用に切り替わったらしい。
切り替わったところで、エネルギーの漏れ、身体的損傷の状況からみて、
活動時間は僅かだろう。損傷は酷いが、幸いにも身体を動かすことは出来た。

　少女と対峙する知人の男性を手で制した。彼の情報は持っているのだが、
記憶の一部に破損が見られた。男性の名前が数字の羅列になっている。
幸いなことに少女に関する記憶は無事らしい。しかし、猶予はなさそうだ。
この記憶も破損する可能性は高い。
「……待ってくれ。あの子の相手は俺がする」
「てめぇは敵と戦える身体じゃねぇだろ。ひっこんでろ！」
　人間に似た姿を持つ惑星の青年から見ても酷い状態らしい。
「俺はあの子と話をしたい。俺の身体が、活動を停止するまでに……」
「無茶だよ。また修理出来るから無理せずに離脱しよ〜よ」
「大丈夫さ」
　球体のロボット、よく一緒にいた筈なのに、その名前は記憶になかった。
球体のロボットがメッセージを飛ばしてくるが、それを確認することも
出来なかった。何かを実行しているようだが、それも理解出来そうにない。



　少女をぼろぼろの両腕で抱きしめる。
「くっ……」
　強制的に実行されたプログラムが、緊急停止のものではなく、
偽装されたものだと気付いた。意味を理解した時には手遅れだった。
「……御免、君を止める方法はこれしかない」
　俺が喋ったものだが、俺の意志ではなかった。
　右腕の刃は欠けているとはいえ、鋭利なものに違いはない。少女の背中に
回した右腕は、刃を少女の背に突き立てていた。
「お嬢さん、俺が人間だったら……俺はお嬢さんに……告白していただろうな。
お嬢さんが好きだ……って……」
　活動の限界に達しようとしていた。
「ミライ……わ、私は……」
　少女の声が震えている。視界がぼやけて足の力が抜けていく。
「君は一人じゃない。俺が、ずっと君の側に……居るからな」
　漸く理解出来た気がした。いや、理解した。
　身体の感覚が殆どない。ふらふらと歩いたような、何かを落としたような、
浮遊感があるような感じだった。
「私は……」
　嗚咽が聞こえた。少女の答えはなかった。聞かずとも判っていた。



「ミライ！」
　ぽちも青年も間に合わなかった。
　抱き合う二人の身体がぐらりと揺れ、床に開いた穴へと落下した。