『行き当たりばったりな冒険　〜ツルギの場合〜』



　とある世界、GC2075.07.18.10:16、とある研究所にて——


　黒ずくめのクルゥはがらりと雰囲気が変わっていた。同じ容姿でありながら、
全く異なる印象だ。色白の化粧と蒼い口紅のせいだけではない。彼女の内に変化が
訪れたようだった。物静かで大人しい……悪く言えば根暗な印象を受けた。
「貴方はクルゥさん……か？」
　彼女は俺の問いには答えず、ただ口元に笑みを浮かべるのみだ。
「……そうか、君は私を知らないんだね」
　落ち着いた口調。クルゥとは異なる口調だった。言語の強弱にも違いがあった。
「俺も一応はロボットだ。人物の見分けくらいは出来る。クルゥさんの姿をした
貴方は誰だ？　クルゥさんや俺のマスターと同じ反応がする」
「君が不思議がるのも当然だな。私の身体はクルゥそのものだが、
私はクルゥであって、クルゥではない」
　クルゥの中の誰かはそう答えた。
「多重人格ってやつ？」
　彼女は首を振った。
「それに似ているが、違う。ややこしいのだが、確かに私はクルゥによって
生み出された。一つの人格としてクルゥの中に存在している人格だ。
『核(コア)』による副産物と言うべきかな」
「……『核(コア)』は人格も形成するのか？」
「好奇心が強いのは良いことだけど、面倒なことを聞くね。質問だけに答えると、
人格を形成するのは移植者本人であって、『核(コア)』はその手助けするだけ。
余程のことがない限り、不可能ではないよ、
　俺は彼女の違和感を理解した。そして、博士の思いを裏切ることを
連想してしまった。元々、『核(コア)』は『D.A,R,K.(ダーク)』シリーズの
技術だ。勿論、俺の中にも存在している。人間や他の惑星の種族である
マスターやクルゥに扱えるのならば、俺も扱えるのではないか。
「必要な情報だけ常にクルゥと共有している。こうして君と会話している今も、
君と私の会話をクルゥは聞いているよ」
　彼女は自分の長い耳を指さした。
「因みにクルゥの身体も人格も女性だが、私は男性だからね。
間違えないように宜しく」
「え？　貴方は女じゃなくて男なのか？」
　彼女の中に居る彼は頷いた。
「私はダークという者だ。宜しく、ミライ君」
「あぁ、こちらこそ宜しく……」
　彼は右手を差し出した。握手を求めているのだ。右手でそれに答えようとした時だ。
「ミライ！　危ない！」
　アークの声。本日二度目の衝撃が俺を襲った。