水辺で遭遇した兵士たちとの遭遇戦は、クロエたちの圧勝に終わった。
　平原の兵士たちとの戦いで得た経験から、装備の強化や戦い方の研究を行ったからだろうか。
　水辺でのんびりバカンスを楽しんでいたであろう兵士たちにとっては、災難な話である。

　装備の強化と言っても、クロエは素手に学校指定の制服という格好である。
　では、どうやって強化を行うのかというと……　クロエの身体や着ている制服は、クロエが契約している格闘妖精という名のエンブリオの力によって保護されているため、エンブリオの力をさらに引き出せば自動的に強化される、という仕組みになっているようだ。
　
　なお、身体の強化のほうは、エンブリオの力を最大限に引き出そうとするとクロエの身体が耐えられないため、手足の強化と緊急時の全身強化に止めている。 素手で岩を殴っても拳が砕けない程度の強化を施してはあるが、動く速度が何倍にもなったり空を飛べたりということは、残念ながらできないようだ。

　また、格闘での攻撃を当てることも、クロエ自身の力で行わなければならない。
　拳による打撃も、エンブリオの力によって当たれば板が割れる程度の威力は出るが、当たらなければそれまでだ。
　実戦では、素人が何も考えず攻撃を行っても、一発でさえ当てることは難しいだろう。
　エンブリオの力によって戦える力を持つことはできるが、それを生かすためには自身の能力の向上も不可欠なのだ。

　クロエたちが水辺をさらに進んで行くと、どこからともなく綺麗な歌声が聞こえてきた。
　歌が聞こえてくるほうに無意識に進んで行きたくなるような、そんな歌声だ。

　そのまま歌声が聞こえて来るほうへ進んで行くと、怪しげな一団がたむろしているのが見えてきた。
　今度はどう見ても半裸の兵士たちではない。

　なにやらバラエティに富んだ集団である。
　セイレーンの歌声に惹かれて集まっていたのだろうか。

　クロエたちが近づくと、相手の一団もこちらの気がついたようだ。
　相手はセイウチを前衛として、ゆっくりこちらに近づいてくる。　 いつのまにかセイレーンの歌が、猛々しい戦いの歌に変わっていたりする。 芸が細かい。
　どうやら、戦いは避けられないようだ。

　クロエは嬉々とした表情で、相手に向かい飛び込んで行った。
　クロエたちとセイレーンたちの戦いが、今始まる！

　ポポロはクロエの挨拶に顔を綻ばせて、

　そして、ピアのことを尋ねられるとさらに表情を崩す。満面の笑みだった。

　ちっとも要領の得ない言葉で、ポポロはそう答えた。

男の子らしい真剣な眼差しで彼は答えた。

顔に注いでいた視線が、自らを指さすその指先に移る。
‥また、少し獣は鼻先を寄せてきた。
ふんふんと匂いを嗅ぎながらも、名前という言葉を聞いてぴんと視線を跳ねさせた。

ひとつひとつの言葉をかみしめるようになぞる。
一瞬の空白があってから、ぱあっと顔をかがやかせて、

と、もう一度名前をなぞった。
それから、投げかけられた問いを再び首を傾げて反芻する。
しかし先ほどよりは幾らか早く、ぴんと尻尾と胸を張って応じた。

（経験上ね、とひょいと肩を竦め）

（ぺこりと慌ててお辞儀をして）