ガスわく山道をシュガー達はさまよっていた。山地は深い雲に覆われて視界が閉ざされ、ざくざくと星屑の礫を踏む足音だけが聞こえてくる。森へと進行したシュガーたちを待っていたのはキラーインコたちの厳しい洗礼であり、インコにボコボコにされ、退路を遮断されたシュガーたちは、山地へと追いつめられてしまったのだった。OBONどころではなかった。

城攻めがはじまってからある程度の日数がたつ。シュガーは当初、王の防衛戦略は王城の内部に反乱者を引き込み、その上で、地の利を活かして迎撃する戦略なのではないか予想していたが、徐々に強力な敵の出現が増えているらしい。

自分達はまんまと相手の得意な土俵へと引き込まれたようだ。シュガーは唇を噛み締め、己のうかつさを呪った。少なくとも森に挑む前に、パーティの装備を強化するべきであったのだ。

シュガーたちは敵に出会わないことを祈りつつ、城の庭園へと撤退するためのルートを探っていた。雲は濃く容易にルートは見いだせない。山地は森よりも強力な敵が待ち受けていると聞く。森での敵に叶わなかったシュガーたちが山岳での敵に勝つ公算は高くはない。パーティの面々の表情にも焦りの色が浮かんでいた。

シュガーが疲れた身体に鞭打ち、山道を進んでいると、生温かい風が吹き、場に似合わぬ潮の香りがした。シュガーが怪訝に思っていると、紺色の鬼火がざわと立ち上がり人影となった。平家の怨霊がシュガーに何かを告げようとしてくれているのである。紺の炎の只中にいるは、容顔美麗な若武者、尤も歎美するに足るべし、平維盛の怨霊であった。

問うシュガーに、維盛の怨霊は不安げな表情を浮かべ、前方を指さして首をふる。

シュガーがじっと目をこらし、耳をすますと、シュガー達の上空を飛び回っていることが感じられた。パーティを先導する黒猫も毛を逆立てて警戒を始めていた。強力な敵がシュガーたちに迫っているようなのだ。シュガーはオープンフィンガーグローブをはめなおし、前方の虚空を睨みつける。

維盛の怨霊はそんなシュガーをいぶかしく思ったのか眉をひそめた。何故逃げない？とでも言いたげであった。シュガーは維盛の怨霊に笑みを返した。

維盛といえば、無能な愚将として知られている。水鳥のはばたきを源氏の夜襲と勘違いして戦わずに逃げ出した富士川の戦いや、倶利伽羅峠で木曾義仲による奇襲を受けて大敗した倶利伽羅峠の戦いの、維盛は平家側の総大将だったのだ。そして、シュガーは当然知っている。都落ちした後の維盛がどのように行動したのかを、光源氏の再来とまで言われた貴公子の最期を。

富士川の戦いの当時は西国は飢饉であり、平家側の兵站はおぼつかなかった。そして、維盛は将才に乏しく、大人しく覇気に欠ける人物であり、そんな人物を総大将にした平家のみなさんの悲憤と、維盛自身の悲哀を思った。生きづらい浮き世の定めを思い、シュガー胸に切なさが、瞳に憤りが満ちていく。

シュガーは眼を閉じて冥府との経路を開く。緑の鬼火が海辺によせてくる波のようにわきたち、波の間から平家の怨霊たちが立ち現れる。総大将と思しき顔色の悪い怨霊（知盛）を筆頭に、笑顔が牡丹のごとき男前（重衡）、GOUKETSU臭のする男（教経）、いぶし銀なおじさま（教盛）、雅やかな雰囲気の歌人（経盛）、笛を携えた少年（敦盛）、維盛の弟たち（有盛・資盛）、清らかな雰囲気の少年（知章）、歴戦の強者の雰囲気がするおっさん（忠清）など、維盛を含め、シュガーの全精力を傾けた平家の怨霊オールスター召還であった。（なお、ボンクラ大将こと宗盛は遠くのほうからハラハラした様子で見守っている）

シュガーは意を決してパーティのメンバーに目配せする。敵はこちらの動向を把握しているのだ。夜襲をかけられる前に逆襲して敵中突破するしかない。かつてない切迫した戦闘を前にして、さまようシュガーの耳もとに冥府からの声が聞こえてくる…

とは口ではいうものの、かつて経験したことのない危難の際には、頼もしいもんだぜとか内心でデレていたシュガーなのであった。

ハチェットのカバーを外す。硝子の青い目が揺れた。

シュガーは怨霊と会話をしているようです…

シュガーは怨霊と会話をしています…

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