『行き当たりばったりな冒険　〜ツルギの場合〜』



　とある世界、GC2075.09.09.00:38、とある施設にて——


　主に夢を占う占い師という女性、リリィが水晶を翳すと、
いろんな風景が流れて消えていった。どの風景も
電脳世界での少女が映っている。
「いつだったかな」
　水晶は一つの記憶を映し出した。あの少女だ。
　映像の中の少女一度も見たことがない表情をしていた。
その翳りのある表情は、元々色白だった少女を病弱な
少女に見せていた。まるで絶望に沈んでいるかのようだ。
その瞳が暗い色に染まっていた。
「パンドラ？」
　リリィは頷いた。
「この区域に来て間もない頃よ。何があったのか
知らないけど、この頃のあの子は凄く暗かったわ。
何かを探している様子だった」
　水晶玉の中の少女は何かを語っていた。
「私も一緒に探してあげようとしたんだけど断られたわ。
危険なモノだからって。別にお礼が欲しかったんじゃない。
ただ見てられなかったから、声をかけただけだったけど……
お礼に少し先の未来を教えてもらっちゃった」
　少女の口元に微かに笑みが浮かんだように見えた。
「凄いのね。あの子。未来が見えるんですって。
お陰で私の身の危険を回避出来たわ」
　リリィの話に合わせるかのように、映像の中の少女は
暗い表情のまま、不敵な笑みを浮かべる。リリィは
水晶の頭を撫でた。映像の少女に言う。
「本当に助かったわ。貴方のお陰よ。有り難うね」
　少女が得意げに胸を張ったように見えた。
「それからかしらね。あの子を見かけるようになったの。
偶に未来を読んでは、この区域の誰かを助けているみたい。
今はもう、以前のあの子とは違う。誰かを救うことで、
希望を見出したのか、明るくなって、よく笑顔を
見せてくれるようになったわ。ただ、今でも偶に
沈んだ表情を見ることがあるわね。理由は判らないけど」
　時期的には、恐らく少女が軍から連れ出された時だろうか。
正確な時期は知らないが、慕っていた軍人を失ったから
沈んでいるのだろう。
「ふぅん、俺も詳しく知らないが、こんな表情もあるのか」
　人間には喜怒哀楽の感情があり、場合によってその
感情を使い分ける。どう変化していったのか判らないが、
少女の変化に興味が沸いた。
「……なぁ、もう少し上乗せするから、パンドラの映像を
いくつかくれないか？」
　リリィの表情が一瞬引きつった。
「プライバシーの問題があるから駄目よ。そういう趣味なら
尚更許せないわ」