『行き当たりばったりな冒険　〜ツルギの場合〜』



　とある世界、GC2075.09.08.23:25、とある施設にて——


　電脳の世界。いつの間にか黒い雲が空を覆い、強い風が
草原を駆け抜けている。今にも雨が降り出しそうな空だ。


　黒い機体は炎のように揺らめき、激しく燃え上がると
その姿を変えていった。黒い突起が伸縮を繰り返し、
巨大な人型の機体へと変わっていく。
　アースの軍にも他の惑星の軍にも該当しない。同じ特徴の
機体も見あたらない。少女とのデートでノートに触れた時に
見えた謎の映像で見えた機体に酷似していたが、俺の持つ
情報にはない人型の黒い機体だった。
　アンノン……所属不明、正体不明の機体だ。アンノンの
情報を記録する。兄弟機との情報の共有は今はしない。
単独行動がばれてしまう。

　少女の震える手。不安を和らげようと少女を抱き寄せる。
　少女に何と言えばいいのだろう。少女を助けた英雄は
今や人類の敵で、少女を利用するために接触した可能性がある。
少女を助けた時点では英雄だったのだが、少女の存在を
知っていた可能性があった。
「そんな……あの黒いロボットは……ディーバが、
あの黒いロボットなんて……」
　少女の顔は青ざめていた。
「私が見た未来の通りなら、ディーバが……
あの黒いロボットが都市を炎に変えてしまう。それは駄目」
「お嬢さん！？」
　少女は俺の手を振りほどいて黒い機体の前に飛び出した。
「ディーバ。何があったのか分からないけど、そんなの駄目。
落ち着いて話し合いをしましょう」
　黒い機体が少女に腕を伸ばし、少女を手で掴む。
「きゃっ！」
　少女を掴んだだけで危害を加える様子はない。
「もう手遅れさ。魔女のお嬢さん。俺の恩人である
お嬢さんを巻き込むつもりはないが、人間は滅びた方が
宇宙のためさ。いつか人間が宇宙を滅ぼすぜ」
「宇宙を滅ぼす？　人間はそんなに愚かではありません」
「どうかな？　欲深い人間共は禁忌に触れたんだ。
滅びは少しずつ宇宙を侵食し始める。気付いた時には
最早手遅れだ」
「あぁっ！」
　黒い機体の目が深紅に輝いた。


　少女の小さな悲鳴を最後に、俺は現実に引き戻された。
強制的に戻されたらしい。
「……パンドラ？」
　少女へ呼びかけるも応答もなければ、少女の居た
電脳の世界へ行く手段もない。
　少女は奴と一人で戦うつもりなのだ。無謀だ。
「なんて無茶なことを！」
　俺は何度も少女の名を呼んだが、彼女の応答は
一度もなかった。