そういえば、この世界における“英雄”は誰なのだろうか。
まだ活動開始から間もないとはいえ、頭角を現している人物についての情報は入ってきていないように思える。
……いや、情報収集すらろくにできないのが正直なところではあるが。

私の存在理由は世界の救済。
だが、それは私自身の手によって行われるべきではない。
あまり大それた事をして人々の記憶に残ってしまうと、記憶の補填に支障をきたしてしまうからだ。

私は“陰”でなくてはいけない。
その為には、一刻も早く“光”を見つけなくては。

……とりあえず、成り行き上でも一緒に旅をする事になった彼らに聞いてみるとしよう。
外部からこの世界に来たのなら、恐らく何かしらの目的があるに違いないからな。

……若干、顔触れに不安が残るが。

大丈夫だ。私は何があっても『道具』であれる。
痛みも、違和感も、全て押し殺してみせよう。

　——まるで、自身が訊ねた内容とも被せたような皮肉に
　お手上げと言わんばかりに肩を竦めて苦笑し、それからはひたすら耳を傾けていた。

　彼か、もしくは彼女の言葉は非常に論理的だった。
　だからこそ。

——ずきん。
忘れていた胸の痛みが、私の体を苛む。

違う。気のせいだ。この痛みは、偽物だ。
小さくふう、と息をついて、私は微笑む。

まだ、胸が痛む。海象やセイレーン、兵士と戦う時にはなかった痛み。
——違う。気のせいだ。私はそう自分に言い聞かせ、心を律する。
そして、『仮面』をかぶる。彼らや仲間たちに、違和感を抱かせないため。

ぽつり。
呟きながら、剣を引き抜く。
正眼に構えた刃の向こう——濁った瞳の内に宿るのは、眼差しよりもなお鋭い光。

おもむろに柄から手を離すと、先程呼びかけた少女の肩に軽く手を置いた。