城壁内の片側は、美しい庭園や星々の浮かぶ水辺が嘘の様に、
枯れ果てた砂地となっている。

砂地のエンブリオの振りまく眠りの粉を随分吸い込んで、
アーシェは起こすのも気の毒なほど深く眠ってしまった。
（或いは疲れが手伝ったのかもしれない。どこか旅慣れていない様子があるから）


…広漠たる砂地は、寂し気でどこか懐かしい。
茫洋とした様が海に似ているからだろうか。


冷ややかな岩陰で、灼熱の陽が地平へ沈み、
白い月がゆっくり昇るのを眺めながら、
卯の花腐しはアーシェが目覚めるのを待った。

　

先に受けた問いかけへ確認するように訊くと、すっと右手を差しだしその獣のような手に触れようとして、——止めた。

かと思うと先程受けたお辞儀へのお返しのつもりだろうか、
流麗な動作で片足を引くと、スッと頭を下げお辞儀をする。
これまでのぼーっとした態度とは裏腹に、その一連の所作には不思議と礼節を重んじているかのような雰囲気が漂う。

小首を傾げ、挨拶とはこれであっているだろうか？とでも続きそうな声音で呟くと、躊躇う事無く差し出された右手へ己の右手を重ね合わせた。