律法チェス——トルラルールのチェスは他世界人にはそう呼ばれている。　
ゲームに世界の境はないというが、それが閉鎖的なトルラルールのものであっても　
例外ではなかったらしく、ここメルンテーゼでも　
話題にされているらしいことを知った時には驚いた。　
素直に喜べるほどわたしも無垢ではないが、それはさておき。　

私の持っていたチェス盤に興味を示したらしいフィリーにも、律法チェスを教えてやった。　
はっきり言って弱い。　
だが、懲りずに相手になろうとしているのはいい傾向だ。　
盤上の戦いであれば、例の凶暴性も発現はしない。　
戦闘中に好戦性を発揮するのは一向に構わん（むしろ、良いことだ）が、　
平時にまで持ち込まれては困る。

……当然だ。『本場』の人間なのだから。

　不審者扱いされる心配はしていたものの、予想とは異なる反応が返ってきたことに驚く。

　足の速さにだけは自信があると駆け、
　指摘されて初めて気がついた手のことを思い出し、意識して力を抜いた。

　これ以上しつこくして嫌われるのは、と思い、足を止める。