（今の話）



俺は戦いを愛してはいるが、正直、
真剣に取り組んでいないと言われれば言い返しようがない。

痛みは感じないために防具の用意は疎かで、
素手で戦ってばかりいたため武具の取扱も得意と言えるほどではない。
五感にあたるものが無いに等しく、とにかく鈍感なので
反応も反射も鈍く、力任せに戦ってしまっている自覚はあった。


遥か昔、もう少し人の真似が上手かった頃には
剣技など嗜んでいた記憶もあるが、昔の事は昔の事。
今の俺に出来るのは、鈍器を無造作に振り回す事と、
死や恨みや、そういうものから生じた感情を呪いに変えてぶつける事ぐらいだ。

それでも、生きたものへ毒や呪いはよく効果がある。
濃度の高い恐怖と嫌悪感を上手いこと与えてやれれば、
意気を挫かれず怯まずにいられるものはそうそう居ない。

だから水浴びの青年にも、同じように対応していた。


鎌で叩き伏せ、呪いで動きを鈍らせて、毒で息の根を止める。
慣れ親しんだ一連の流れで、哀れにも不十分な装備しかない男を仕留める事に成功した。





……という夢を見たんだ。



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（昔の話）


自由とはどのような事か、繰り返し考えていた。
他の何も意に介さない事か。それなら、無頓着とも言える。
あらゆる行いを可能にする事か。それは万能とも言えるだろう。
あるいは、何をしなくとも、何もしないからこそ、自由と言えるのか。


少なくとも自分は、自分の性質、快と思えるものに囚われていた。
流血と暴力を好んで、生来の能力を無闇に振るい周囲の全てを蔑ろにしていた。
それが自由であるという事だと思っていた。

自分が死人であるからという理由だけでなく、命を尊重しなかったので、
特に人間からはおおいに嫌われて、憎まれて、疎まれていた。
そのように思わせるように仕向けていた所もある。
なにせ、腹立たせた時が奴らは一番、積極的になってくれるのだ。

虐げれば虐げるほど、奴らは一致団結して、こちらを殺そうと群れで襲ってくる。
それをどのように凌ぎ打ち倒すか、それを考えるのが何より楽しかった。



そうして勿論、今のように負ける事もあった。

雨が降り続いて、冷え冷えとした流水が千切れた身体の周りを渦巻いている。
今日襲いかかってきた連中はどうやら、定番の怪物の滅ぼし方すら知らなかったらしい。
散り散りにされてばらまかれていたが、破片を数えるには両手の指があれば十分足りる。
これでは、繋ぎ直す事にも３日もかからないだろう。

匂いのきつい草やら、銀の杭やらを使われると、
こちらも灰に散り易くなるので復帰にも大分手間が掛かってしまう。
再び立ち上がるまでに手間の要らない事に、しかし喜ぶ気にもなれず、
むしろ拍子抜けのような気さえした。


俺が敗北も愉しんでいるのは、それが難関であるからだ。
勝敗のリスクが薄い事に関しては、思う所がないでもない。

命が欲しいものだと、馬鹿げた事を薄ぼんやりと考えもした。

40cmほどの大きさの人形がゆっくりと二足歩行で近づいてくる。

スカートの裾をつまみ一礼。

首を傾げた人形が急に宙へと持ち上げられる。
つまみ上げたのは、身長は170前後、青髪の耳長。

相手の姿を認めれば、片方の手は武器を取り出し、もう片方の手でサングラスの位置を調整し始める

　　　　　　──人もをし　人も恨めし
　　　　　　　　　　　あぢき　　　なく
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　世を思ふ故に
　　　　　　　　もの　　　　　　思ふ身　　　は───