「ヒイラギ=マコトと、そのパーティメンバーだ。準備をしておけ」

実に、顕著な反応だった。
普段と比較すれば『異常』とすら断じてもいい。

「……知り合いか？ 」

　気分転換のつもりで振った話題だったが、逆方向に働いている。その自覚はありつつも、無視する気にはなれなかった。

「……まあ、そんなところかな。フィアと一緒にいった飲食店をやってる人だよ」

「ほう？」

　驚くべきことだ。彼女が、嘘をついた。
　嘘をついた、というのは言い過ぎだが、彼女の印象とは異なる答えを口にしたのは間違いない。

「結構仲が良いんだな。PTMだ。上手くやっておくにこしたことはない。まあ、『被る』必要はないがな」

　ヒイラギ=マコト。
　あの歳恰好で、目ぼしい武器を持たず——おまけにあの“目”。
　となれば、ミモザと『近い』世界の人間だろう。
　
　……成る程。合点がいく。
　つまりは——日常の象徴『だった』もの、というわけだ。

「俺はフィアに頼んでいた武器を取りに行く。その間に、身体を清めておけ。そのくらいの時間はある」

　分かった、と頷く少女に背を向ける。
　『夢』も一因だろう。俺が帰ってくる頃には、元に戻っている。
　
　……きっと。
　きっと、自分も似たような表情をして眠っている。
　ミモザの苦悶に満ちた寝顔を、思い返した。
　
——・——・——・——・——

　モノクロームの景色の中。
　実った稲穂が、重たげに揺れるのに合わせて。
　手を振っている、誰かが立っていた。

大丈夫だ。私は何があっても『道具』であれる。
痛みも、違和感も、全て押し殺してみせよう。

——ずきん。
忘れていた胸の痛みが、私の体を苛む。

違う。気のせいだ。この痛みは、偽物だ。
小さくふう、と息をついて、私は微笑む。

まだ、胸が痛む。海象やセイレーン、兵士と戦う時にはなかった痛み。
——違う。気のせいだ。私はそう自分に言い聞かせ、心を律する。
そして、『仮面』をかぶる。彼らや仲間たちに、違和感を抱かせないため。

ぽつり。
呟きながら、剣を引き抜く。
正眼に構えた刃の向こう——濁った瞳の内に宿るのは、眼差しよりもなお鋭い光。

おもむろに柄から手を離すと、先程呼びかけた少女の肩に軽く手を置いた。