「……なんだコイツ」



目の前に何かが飛んでいる。既に辺りは夜となり暗闇に包まれてしまったので、よく分からない。

人間の目は今一使い勝手が悪いなと思いつつ、そいつを見る。

虫よりは大きく鳥よりは小さい。自分の知っている生き物で例えるならネズミくらいだろうか。

体は羽毛に包まれて、ひたすら羽を動かしてこちらの頭上を飛び回っている。


「飛んでるし、たぶん鳥……だよな？」


よく見てみても結局何かは分からない。

単純に飛行しているなら虫か鳥だろうと当たりを付けてみただけだった。

此処に両親がいればそいつについて何でも教えてくれるのだろうが、今此処には自分一人しか居ない。

己の知識の狭さについてはこれからの課題の一つだ。


「しっかし、野生の獣にしては警戒心が無さすぎなんじゃねぇのかな」


たぶん『鳥』は、ずっと自分の近くを飛び回っている。視線を向ける程度では特に反応を見せる事は無い。

手を伸ばして鳥に向けると流石に逃げられるが、すぐにこちらへ戻ってきてまた飛び回る。


「訳分からんけど……むぅ」


手を伸ばす。逃げられる。

挟んで掴もうとする。逃げられる。

木刀で叩き落そうとする。避けられる。


「…………ハッ」


反射神経はソコソコに良いらしい。こちらの動きが先読みされているのか一向に触れる気配すらない。

だが、これだけ動いてもコイツは逃げようとしない。もしかしたら俺に用でもあるのかもしれない。


「…………ハッハッ」


ただ、ぶっちゃけどうでもいい気がしてきた。

自分でも分かるほどに込み上げてくる物がある。気分が高揚しているとでも言えばいいだろうか。

ぶっちゃけて言うと楽しくなってきた。


「ん……よし、捕まえて今日の晩飯にでもするか！」





鳥を捕まえるべく俺は動き出した。

たぶん、狼の姿のままだったら俺の尾は切れんばかりに振られていただろうか。

警戒心が無いのは俺も鳥とさほど変わらなかったのかもしれない。

近くには鳥だけでなく若干の悪意を持った吸血鬼も居たのだから。

勿論、今の俺はそんな事分かるはずもなかったが。