暑い。
　死ぬかもしれない。
　私は真剣にそう思った。

　こんなに暑い場所があるとは知らなった。気分的には異世界に来た感じがする。気分だけだけど。
　幸か不幸か、ここは紛うことなくメルンテーゼだ。

　水辺を抜けた先、眼の前に広がるのは不自然に枯れ果てた大地だった。
　おかしい、と思う。
　城壁内でこうも気候が変わるのは、普通では考えられない。
　——何か、あるんだろうか？

　それと、もう一つ。
　私は来た道——水辺の方を、ちらりと振り返った。
　初めて、人と戦った。
　分かっていたことだ。一揆に参加するのだから、新王側の人間と戦うことだってある。
　と言うか、そもそも、新王へ殴り込みに行っている。目的は、新王だ。
　覚悟だって、それなりにしてきたはずだった。
　けれどモンスターを倒すのと、人を倒すのは——やっぱり、違った。
　酷く、いやな感じがした。

　本当に、私で良かったんだろうか。一揆に参加するのは。

　一度、首を横に振った。
　暑すぎて、疲れている。それで妙なことを考えてしまうんだ。
　ウルヘアもどうにも元気が無い。このような姿は、あまり見たことなかった。
　それくらい、暑い。
　考えてもどうしようもないことを考えていても仕方がないし、この暑さがどうにかなるわけではない。
　ただ、今は前に進まなくては。

　広大な砂地を進む。
　いつもならミハウと二人きりでの進攻だが、今日は違った。
　ここに向かう前に出会った、二人の少年——ジャンルカ・ベルトッドと、シズ・クローチェ。
　それと、彼らと行動を共にしていると言う少女、アリシア・イーユス。
　何の縁か（と言うかまあ、同行を持ちかけたのはこちらだけれど）、一緒に砂地を目指すことになった。
　ただ、シズの方は、今日は居ない。
　ルカ曰く、彼は身体が弱いから今日は留守番、とのことだった。
　留守番？　と思ったけれど、彼らにはどこか拠点のようなものがあるのだろう。たぶん。

　何にせよ、不慣れな土地を進むのだから、人が多い方が心強くはある。
　お互いの利害が一致したから、一緒に行動することになったのだけれど、それでも、お礼は言わないとな、と思った。
　それは、ここを無事に越えてから、の話ではあるけれど。
　私は杖を握り直して、足を進めた。

（どうやら、まだ名前を覚えられていないようだ……）

——イェジは　エティたちを　凝視　している　！

——少し言いよどんで。

　と、小さく、先に言っておいて。
　砂地のその先、相対するであろう敵の方を見遣った。

顎に人差し指をあてて思案顔

後半は少しつぶやくようにしてから

フィーナの影から、エンブリオが現れる。

ちら、とフィーナのほうを見てから小声になって。

深く頭を下げた。

「相違なく。……と云っても他の方々とは参戦理由は不純めいていますけど」

曰く「人探しをしながら一揆進行の手助けをする」という、遠回りだか近道だか分からないやり方で手伝いをしている、と言う。

「コトカ・ラヤヤリャリュ……ルヴィ、ですね」

ナチュラルに噛んだことには突っ込むまい。

「ギ、です。ギィでもギーでもギギでもなくギです。でも前者2つは許容範囲です」

言い切るのも云い辛そうし。
似ているといった事、それにはこくりと頷く。

「……何となくそういう感じがして……もしかしたら気のせいかもしれませんけど」

そうしてあなたに渡した昼顔をちらり、と眺め。

「エンブリオではなく、私個人が所有する魔力から作り出したものです。
　より正確には私の体内にある昼顔と云う花の遺伝子を検索し、花として私が再構築しています……。要は、私が知ってる花なら何でも作れると、思って頂ければ」

異世を渡るこの身。知らない花は無いと自負する程に自らが得てきた花は沢山ある。そう体現するよう、相変わらず震えた眼をしながらも自信に満ちていた。

ひそかに気にしているらしい。

出会って５分も経たずにグチり始めた。
馴れ馴れしいというか、人懐っこい性質なのだろうか。
その様はどことなく仔犬を彷彿とさせた。

（道中、なんとか二人の名前を覚えることができたようだ ▼）

深く息をつき、気持ちを落ち着かせようと小さく呟く。
武器を構えて、前を向き。表情は、いつもより強張っていた。

ふ、と息をついて、皆へ視線を向け——瞬く間に、表情が氷解する。

言いながら俯いて、言葉は尻すぼみに消えた。

微笑んでから一礼。深く息をついて、相手を見据えた