迷い森の案内人、迷い森の守人、それがガリバルディアの職務である。
一揆に参加こそしているものの、その職務を放棄するわけにはいかない。
職務を放棄するということはすなわち、迷い森に迷い込んだ者が閉じ込められたり、出ることができたとしても見知らぬ土地に迷い込んでしまうということだ。
同じように、ジャドゥーラの里の者も外に出ることができず、里という閉じた空間に閉じ込められてしまう。
故に、数日庵を離れることはあっても、度々は戻って案内をする必要があった。
庵という呼ばれ方をしているが、実際のガリバルディアの庵は比較的大きな家屋である。
夜間の案内は危険を伴うことがあるため、小さくはあるが来訪者が宿泊できるよういくつかの部屋が存在している。
何代も前に、商隊が迷い森を活用するのに合わせて増築されたらしいが、その名残か宿泊者の目を楽しませるようなランプが、ひとつの部屋にひとつずつ置かれている。
食料品も豊富とは言えず保存食ばかりではあるが、来客が数日間空腹を満たすには足りる量が備蓄されている。
宿泊の自由や食料品の扱いの自由、数日間不在であること、それらを記した書き置きを残して、今こうして一揆に参加しているのだった。
危険意識が欠如しているようにも見えるが、そもそも自分が案内しなければ来訪者は出ることができないのだ。
それもあり、ヴィクラムは誰かに留守を任せることもなく庵を後にしていた。

早朝、日が昇りきる前に森へと入る。
来訪者があれば手早く案内し、いなければいないで目を通しておきたい書物があった。
そもそもガリバルディアにとっての娯楽というのは、とても少ない。
日がな一日庵にいるわけではないが、その大半をそこで過ごすうち歴代のガリバルディアたちは書を集めるようになった。
特に英雄譚や架空の冒険劇を好んだのは、森の外での武勇に少なからず憧れていたからなのかもしれない。
ヴィクラムも例に漏れずそれらの書物を読み進めてはいたが、まだ半分も読めていないほど、その蔵書量は多かった。
しかし今、ヴィクラムが気にしている書はそれらではなかった。
書の名は——分割世界事典。
先代のガリバルディアがフリント領主から譲ってもらったという風に聞いているが、先代——マハヴィルは物事を大げさに語るきらいがあったので実際のところは不明である。
ともあれ、ずっとお伽話や夢物語の類だと言われ、そう思っていた「他の世界」。
「そこ」から来た者達と行動を共にしているという事実は、不思議な高揚感をヴィクラムに与えていた。
自然と歩みは早くなっていたが、胸の高鳴りを考えれば仕方のないことだった。

あるいは、若い頃その本を夢中で読んでいた自分と、再び出会うために。

内心熱くなりやすい、と言われ気まずそうに視線を逸らす。