貴重な水着、ねえ……そういう趣味の人員を集めた部隊だったのかな、もしかして。
　ま、知らなくていいか。知った所で使える場面も無さそうだし、そっちの分野はあの赤髪のお嬢さんがどうにかしてるだろうしね。
　……それは穿ち過ぎで、単に物資不足で水着自体が貴重品だったりするのかな？　だとしたら悪いことをしたかもしれないな。
　でも見張りにしちゃ気が緩みすぎだったよねえ彼ら。一人ぐらいは準警戒体制でなきゃいけないぐらいの情勢だろうに、いまは。

　些事はさておき、兵士たちの見張り跡を越えて水辺を進んでいく。
　しかしこの骰子はなんでこんな河原に落ちてたんだろうなあ。賭け事好きの兵士の落し物だったりするんだろうか。
　ま、そうだとしてもここ数日の間に落としたっていう汚れ具合じゃないし、遠慮なく使わせてもらおう。



　……同行してる妖精さんにこの世界の食材の調理法を教えてもらえないかと尋ねて食材を渡してみたら、返ってきたものは

　なんか、その、うねうねしてた。

　いやはや、活きがよくなってくるのは予想外だったなあ。このまま飲み込んじゃっていいものなんだろうか。
　腹の中で暴れられて腹痛とか、さすがに勘弁なんだけど。
　昆虫食の類だと思ってしっかり噛めば大丈夫、かなあ……？　ううん。

　……もうちょっと様子を見ておこうかな。



　シェイド。他の分割世界では闇霊と呼ばれるそれと同質の力を持った存在、のようだ。
　はっきりと言えないのは、そっち方面にはあまり聡くないからなんだよね。魔術理論はあちこちで違いすぎるからなあ。
　あっちじゃ主流の説がこっちじゃ邪道だとか、はたまたその逆だとか。門外漢としちゃちんぷんかんぷんだよ。
　その世界ごとに常識も道徳も違うんだから、学問どころか民間療法ですら別物になるのもしかたない話だけどねえ。
　まあそんな愚痴はいいや。シェイドの話だよ。

　ネクターを用いた契約のお試しとして彼（彼女？）を選んだ理由は、扱いやすさ。
　人型をしてると明確な人格を持ってるのが多くて、相棒との衝突が起きそうなのがヤなんだよねえ。
　その点、彼はぼんやりとした意識体だからそうした心配はしなくて済む。
　呑まれないようにっていう別の心配はいるけど……ま、そっち方面は鍛えられてるから大丈夫さ。

まだ動いているザリガニを取り出した。

水、という単語を聞くと一瞬びくりとしたように、見えた。

触手のまわりを妖精が舞う。触手もまんざらではないようだ。

どこから持ってきたのか、触手1号が鍋と火種を抱えて持ってくる。その中にミストリアの花瓶の水を入れ、残念な食材を入れて煮込むこと数分……。

——————なにやら妙に生きのいいパスタのようなものができあがっていた。

背負った薙刀を引き出し、構える

背負った薙刀を引き出し、構える