「ソルちゃーん、今日は誰が相手なの〜？」
「……」

　間延びした問いと2対の視線。
「今日は、マーメイドが2体、セイレーンが2体」

　何回か勝てそうにない相手と相対する幻覚を見た気がするが、現実はそう恐れるものでもなかった。

　話しかけて来たのはボクの契約したエンブリオ。
よくしゃべる方はデビル。
身体にぴったりした、大きくスリットの入ったドレスを好む美形だ。
サラサラした紫のショートカットの耳の上辺りに、曲がりくねった大きな角が生えている。
大きくスリットの入った身体にぴったりするドレスに身を包んでいて、ボクより頭一個半分位背が高い。
本能に従って生きてる感じのタイプだが面倒見も悪くない、バーのママに居そうな感じだ。
優男を超えていわゆるオネエ系な言動をするが、今の所実害はない。

「なあ」
「なぁに？ソルちゃん」
「一応契約してるんだからもうちょっと敬え。
　お前、昨日までは女だった記憶があるんだが。」

　今朝からの疑問を口に出してみる。
間違いなく昨日まではナイスバディ美女だった。
どことは言わないが、何度となく挟まれてたし。

　デビルはにっこり笑って軽く首を傾げ

「だってぇ、飽きちゃったんだもの〜。」

　軽く言い放った。
ボクの士官する国からの付き合いだが、未だに習性がつかめない。

　大人しい方がドール。
ふわふわした金の巻き毛が愛らしい少女人形だ。
ボクの胸位の大きさで、かなり作りが良い。
どこかの富裕層が実在した少女をモデルに作らせたのかもしれない。
言葉は話さないが、宝石を思わせる緑色の瞳がくるくると表情を変えるので何を思ってるかは割と分かり易い。

　彼女とはこの国で出会った。
とても愛らしい人形なのに、なぜか捨てられていた。
生き人形の類だからだろうか。
知らずにうっかり撫でると、気に入られたのか取り憑かれたのかボクの後をついてくるようになった。
ちょこちょこついてくるのが愛らしい半面、放置していると危ないので保護する事にした。

「川辺で遊べていいな〜・・・　ねぇご主人サマ？　後で一緒に」
「お前と水浴びはしないからな？」

　平坦に返すと、デビルは唇を尖らせて宙に浮きつつ背後から覆いかぶさってくる。
慕われる事自体に悪い気はしないが、世間様にあらぬ誤解を招きそうなのでやめて頂きたい。

　ドールがマントの裾をくいくい引っ張って視線で訴えてくる。
目は口ほどにモノを言うタイプで、何となく言いたい事が分かる。
血縁関係も何もないが、妹のようで可愛い。

「いや、お前は水浴びするとまずいんじゃないか？」

　材質が何かは知らないけど。　


そうこうしているうちに今日の相手が見えてきた。

「デビル、ドール。
　力を借りるぞ」
「あー」

　デビルが間の抜けた声を出す。

「何だ、緊張感がないな」
「んー、おにーさんあの子オススメだなー」
「はぁ？」

　確かに今日の相手は昨日の兵士と打ってかわって見目麗しい。
　だからと言ってハーレムを作る気はない。

「そこのセイレーン。
　ご主人サマ、魔法の方で契約してる子居ないし、してみない？」

　そこに居る内の一体を指して、デビルがウインクした。
　いつもチャラチャラした言動ばかりしている割に、ちゃんとした事を考えていた。

「考えておく」

　ボクは得物を構える。
契約するかどうかは、勝ってから決める事にした。


—————

そういえば、名前の分からなかった同行者はジンスケ・ユズリハさんというそうだ。
何となくいさなさんと響きの癖が似ている気がする。
同郷とは行かなくても、近い文化圏なのかもしれない。

まだ動いているザリガニを取り出した。

ぐりぐりとソルディの眉間を指先で押す。犬猫にするようなお仕置きだ。

ニヤニヤとした笑顔に凄みが混じる。

何の気配もなく突き出された真紅の刃がソルティのサーコートに触れる。
切り裂きこそしないが金属をやすやすと三枚に下ろす実力者の手だ。
女王はくすくすと笑い、騎士を制止する。

騎士は笑いながら刃を戻す。代わりにソルティの右腕がびく、と動いたような気がした。

そう言って、手に持った花瓶の中に入った水を思い切りぶちまけようとする……

背負った薙刀を引き出し、構える

背負った薙刀を引き出し、構える