報告書No.02

現在地『星屑の小川』、進行度2.
パーティメンバーと川縁を探索中、数名の生体反応を確認。
河原に置かれた所持品等から、国王軍の兵士だと思われました。
又、同時に敵性反応を検知し、抗戦状態へと移行、
興奮状態に有る、彼等を退ける事と成りました。

定期報告時点で、尋問は終了しておりません。

詳細は追って報告します。

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報告書No.03

提出。
現在地『枯れた土地』進行度1.
先の兵士に関してなのですが、尋問に際して、聞く耳を持たず、
丁重に交渉を致しましたが、相手が再度気絶。
予定との兼ね合いも有り、その場に放置する事が決定。

結論として、何も成果は有りませんでした。

現在は、砂地生物の探索調査を施行しております。
当地は、非常に気温が高く、又、粒子同士の衝突による、
電磁波の影響が強く、Ptype：Zsoltには、負荷が高い土地の様です。

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簡素な報告書に目を通す、此処数日で日課になりつつ有る行為。
二人の人影は、今、かの地下室には居らず、青空の下でノンビリとしていた。
束の間の昼休みである。

社食としては、割と洒落ているだろう店構え。
ラボの関係者が曰くに、建物だけは無駄に古いから、考え方を変えればアンティークとの事。
少々不恰好なレンガが敷かれた床と、使い込まれて艶やかな飴色に成った木製の柵に、
椅子とテーブルが数セット揃ったテラスが此処だ。

「アレか、行き成り、ど正面から遭遇して、相手がパニックにでも成ったんかな？」

バスケットに入っていたサンドイッチを無造作に片手で掴んでいる金髪が言う。
行き成り抗戦とは、穏やかじゃないと言った表情だ。

「まあ、ジョルトが下手な事でもしてなければ、そうなんじゃないかな？」

相変わらず飄々と鷹揚な返事を返すのは、木目が綺麗な木のコップを手にした長髪眼鏡。
先のデータベース改定時にある程度の対人情報は更新したのだから、
滅多なことは無いと思うけれどね、そう断りだけは入れて、微笑む。

因みに、報告書03の一文は無視の方向で、と、その微笑みが言っていた。

「——あ゛ー・・・まあ、一筋縄じゃいかねーだろうなぁって、思っちゃ居たけどな！」

「随分、波瀾万丈な出だしには、成った様だ・・・ね」

金髪の手に持たれた報告書、ホログラムの様な其れが、
音も立てずに姿を消せば、ほんの少しだけ、遠い目をした二人が居た。
どこか懐かしそうな片方と、肩を竦めるもう片方。
何方ともなく呟かれた言葉は——

「果てさて、どうなる事やら・・・」

だった。

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『—ピピッ—緊急事態発生。
トラブルシークエンス1.2.3起動条件Clear、適性反応あり。
Signal:Led.只今より迎撃態勢へ移行します。』

けたたましい警報。
少しずつ、人に近づいていた声が発するアラーム音。
彼と言うべきか、その珍妙の名はジョルト。

市街地から旅立って、一番最初に訪れた場所。
それが、『星屑の小川』。
戦闘こそ有ったものの、新たなエンブリオと出会ったり。
それなりに、有意義だったと言えるだろう。
散策中に、国王軍の兵士らしき彼等に出会うまでは、だが。

「対象4名全てに、敵性反応を確認しました。
　——来ます。」

パリパリと言う音が、空間に木霊する。
ジョルトの四肢に走る電子回路の様な幾何学模様。
それが、紫水晶の様な輝きを発すれば、同色の瞳の中に、
数字が並んでは消えてゆく。

その光景は一種、異様であろうか。
しかし、この珍妙は造られし者。
姿は人でも、その実情はナノマシンの集合体なのだった。

《魔力式を展開、データ様式[Embryo]を開放
　　　——Doll.typeF［Jura］Ver.01　通称：ジュラを召喚します》

ツラツラと読み上げられるのは、処理情報。
何故、口に出るかと問われても、多分、ジュラルには分からない。
開発者二人に聞けば、仕様だと返答して貰えるかもしれない。
誰が言ったか、『処理情報が口を突く、ロマンだろ！』という言葉付きで。

前方に軽く翳された掌、彼の周りを幾重にも取り巻くのは。
ホログラムの窓、高速でスクロールしてゆくプログラム言語を詠唱に、
精霊の姿を模された様な、小さな球体関節人形が現れた。

「Good Morning.Master」

「迎撃対象は、前方4名と認識、補助をお願いします」

表情らしい表情はなく、無機質な顔。
発せられる声はジョルト以上に平坦で。
最低限を、その薄い唇から発する。

「OK.」

「では、参りましょう」

そうして、戦いは始まった。

1.

時間にしたら、数分の出来事。
それは、瞬間的に盛り上がり、呆気無く、しかし伯仲の事として、幕を下ろした。
味方の内の二人は、被弾による負荷で戦線離脱した。
もう一人、ジョルトより前に居た"やみみや"も、一手、二手、
余分に貰っていれば、落ちていただろうことは明白。

—勝ちはしたが。
—懸念が出たとしたら、火力のことだろうか？

兵士を下したそのままの足を、砂地へと向けた仲間について歩く。
その間、ジョルトの思考領域は、ただ冷静に淡々と分析を続けていた。

——火力不足。
——決め手に欠ける。
——解決策、現段階ではデータ不足。

そして、呟く。

「高火力の術式が手に入れば・・・或いは？」

ドールの解析を進めた結果、ジョルトは新しい式を発見していて、
マーメイドにも然りなのだけれど、此方は、交戦時に使用されたものだろうと、
予測がついていた。

だから、新しいドールの式の威力次第では、そう仮説を組んだのだ。

「それには先ず、計測の為に使用してみないと成りませんね」

そして、又一つ呟くと、ジョルトは前方の彼女らに追いつく為、歩調を速めた。

2.

其処だけに熱風が吹き荒れて、地面はひび割れる。
植物は有っても、枯れ草色、生きているのかすら定かで無い。
見渡す限りが、赤茶けた場所。

気候の変動にしては、随分と局所的な。
ジョルトは頭の片隅にそう思う。
しかし、其れより何よりの最優先事項、それは—。

移動してきた頃合いとして、一番の盛りは過ぎた居たと、想われる。
しかし、其処は生物が住むには余りにも過酷な地だとしれるほど、暑かった。

「随分とこう、"暑い"場所ですね・・・。」
《ボディ表面への熱エネルギー接触が増大、熱暴走の危険性上昇、対処を開始します》

彼は額を何となしに拭う、ジョルトの額から幾筋かの汗が流れ落ちた。
しかし、それは体液と言うような生物的な代物ではなく、
ジョルトを構成するナノマシンが合成した"冷却液"。
ボディ内部の温度を、一定に保つための機構だった。
照り付ける太陽は容赦なく、大地は亀裂を伴ってピシピシと悲鳴を挙げている様にも見えた。

「出来れば、直射日光を避けれる所に居たいのですが・・・」
《熱源の増大により、動作負荷が規定値へと接触、省エネルギーModeへ移行します》

之以上、負荷が掛かると人型を維持出来なくなる。
其処まで行動に制限が掛かるのは、回避したい。
キュロキョロと辺りを見る瞳が、なけなしの日陰を探して彷徨っている。
その姿を横目に止めた人が居た。

「ジョルト、こっちよ」

PTメンバーの五鬼童朱音（ごきどうあかね）、漆黒の髪に鮮烈な赤が宿る瞳をした、
歳の頃合いからして、ジョルトの外見より10は上かもしれない、小柄な人だった。
他の少女達と見つけたのだろう木陰へと、言葉少なに珍妙を呼び込んだ。

「スミマセン、ゴキドーさん」

てふてふと早足で、這々の体のジョルトが木陰へと滑りこむ。

「・・・何か発音がちょっと気になるけど、まあいいわ。
　こんな馬鹿みたいに暑い場所に、突っ立ってたら壊れちゃうでしょ？」

貴方、機械らしいし。
と、彼女の口が動いた。
厳密には、少し違うのですが、と、ジョルトは思う。
けれど、それは口を突くことは無く、周りに立ち昇る陽炎の様に宙空へと溶けて消える。
何かを説明するより、別の事に労力を割きたいから。

其の砂地で、太陽が傾いて、地平線へと沈む間際まで、彼女達の沈黙は続いた。